個人再生は、負債を所定の割合に減額し、3年(最長5年)で分割して返済する手続きです。
「個人再生で負債を5分の1(20%)まで減額することが可能です」「個人再生で負債を80%カットできます」等とネット広告で謳われておりますが、圧縮される割合は必ずしも20%ではありません。負債額次第では負債が10%まで減額されることもありますし、逆に資産が多かったりするとそこまで圧縮されない(圧縮されない)こともあります。
個人再生により負債額が圧縮される割合のことを弁済率というのですが、この弁済率はどのようにして定められるのでしょうか?
今回の記事では、個人再生手続きでの弁済額(弁済率)の算定方法等について解説します。個人再生手続きを検討されている方は是非参考にしてみてください。
個人再生とは
個人再生手続きは、再生債務者(借金を負っている人)について、法に則って再生計画案を作成し、この計画案について認可を受ける手続きのことを言います。
再生計画案において負債額やその減額割合(弁済率)を定め、これを認めてもらう(認可を受ける)ことで負債を減額する(圧縮する)という効果を得ることが出来るのです。
2種類の個人再生
個人再生には下記の2種類があります。
- 小規模個人再生
- 給与所得者等再生
両方とも「再生債務者(借金を負っている人)について、法に則って再生計画案を作成し、この計画案について認可を受ける手続き」であることには変わりはありません。要件や手続きの進行等に違いがあります。
今回の記事ではその違いについての解説は割愛します。ここでは、「個人再生には種類が2つある」ということを抑えておいてください。
再生計画案に定める事項
01.再生計画案で定める内容
再生計画案においては下記の事項を定める必要があります。
- 債権者の確定債権額
- 減額率(10%~100%)
- 返済期間(返済回数)
- 各回の返済額
上記①~④以外にも記載する事項(定めるべき事項)はありますが、今回の記事では説明を割愛させていただきます。
02.再生計画による返済額
各債権者の確定債権額(①)に、減額率(②)を乗算することで算出される金額が『再生計画による返済額』です。
各債権者の確定債権額(①) × 減額率(②) = 再生計画による返済額
この金額を③で定めた返済期間(原則3年。最長5年)で返済すれば、その他の部分は免除されることとなります。
たとえば確定債権額が500万円、減額率が20%である場合、再生計画による返済額は下記のとおり算出されます。
500万円 × 20% = 100万円
再生計画による返済額100万円を3年間で支払うことができればその余の部分は免除されることとなります。500万円を返すべきところ、100万円を返すことが出来れば400万円については免除されると理解していただければOKです。
減額率の算出方法
再生計画による返済額を算出する上での重要なファクターとなる減額率はどのようにして定まるのでしょうか?
減額率は、「返済総額の最低限度額」を確定債権額で除算することで算出されます。
減額率(%) = 返済総額の最低限度額 ÷ 確定債権額
それでは「返済総額の最低限度額」は、どのように決まるのでしょうか?
返済総額の最低限度額は、以下の3つの基準で算出された金額を比較し、最も大きい金額のものを採用します。
- 最低弁済額の基準
- 清算価値の基準(清算価値保障の基準)
- 可処分所得の基準
なお、③の可処分所得の基準は、給与所得者等再生の場合にのみ参照し、小規模個人再生の場合は参照することはありません。
3つの基準
以下、各基準についてそれぞれ確認していきましょう。
01.最低弁済額の基準
再生債務者が負う負債の額から算出する基準です。負債総額によって以下の表のとおり定まります。ネット広告などではこの基準を見出しに使っていることがほとんどです。
負債総額 | 最低弁済額 | 最低弁済額の幅 |
100万円以下 | 負債総額と同額 | 負債と同額 |
100万円超500万円以下 | 100万円 | 100万円 |
500万円超1500万円以下 | 負債総額の5分の1 | 100万円~300万円 |
1500万円超3000万円以下 | 300万円 | 300万円 |
3000万円超5000万円以下 | 負債総額の10分の1 | 300万円~500万円 |
負債総額が350万円であれば最低弁済額は100万円、負債総額が700万円であれば最低弁済額は140万円(700万円×20%)、負債総額が3200万円であれば最低弁済額は320万円(3200万円×10%)となります。
なお、負債総額が5000万円を超過する場合は個人再生を行なうことができないと法で定められているので(いわゆる5000万要件)、5000万円超の負債総額に対する最低弁済額はそもそも定められておりません。
02.清算価値の基準(清算価値保障の基準)
再生手続きにおいては、破産した場合の予想配当額を下回らない額を弁済する必要があるとされています。そのため最低弁済額の基準よりも清算価値の総額の方が上回る場合は清算価値の総額を下回らないように再生計画における弁済総額を定める必要があるのです。これを清算価値保障原則と言います。
清算価値とは、再生債務者が有している財産のことだとお考え下さい。
たとえば200万円の価値がある株式を持っている人が破産する場合、この株式は換価され配当に回されることとなりますので200万円が配当財源に充てられることとなります。清算価値保障原則に則れば、破産の予想配当よりも返済総額の最低限度をあげなければならないこととなるので、200万円の価値のある株式を有している人が個人再生を行なう場合は、清算価値である200万円以上は弁済しないとならないとされます。
かなり回りくどい説明となってしまっておりますが、簡潔に説明すれば「持っている財産の価値(清算価値)以上は弁済しましょう」ということです。
なお、清算価値として計上する財産は、原則として破産手続きにおける自由財産を超えた財産(換価対象となり得る財産)です。たとえば99万円未満の現金は清算価値にはカウントしません(東京地裁管轄)。
03.可処分所得の基準
可処分所得の基準は、再生債務者の収入、家族構成や居住地域を基に算出される基準です。
「再生計画案の提出前2年間の再生債務者の収入の合計額からこれに対する所得税等に相当する額を控除した額を2で除した額」から「再生債務者とその扶養を受けるべき者の最低限度の生活を維持するために必要な1年分の費用の額」を控除した額に2を乗じることで可処分所得を算定すると民事再生法で定められております(民事再生法241条2項)。
なお、可処分所得の基準は、小規模個人再生の場合には参照しません。給与所得者等再生のときにのみ参照する基準となりますのでご注意ください。
高額になりやすい傾向にある
可処分所得の基準は得てして高額になりやすい傾向にあります。そのため、給与所得者等再生では可処分所得の基準を採用することが多く、小規模個人再生で手続きを行なう場合よりも再生計画に基づく弁済額が増えることになるケースがほとんどです。
返済総額の最低限度額、減額率の計算
モデルケースをもとに、返済総額の最低限度額、減額率を計算してみましょう。
Case.01
- 小規模個人再生
- 負債額(確定債権額):1000万円
- 保有財産(清算価値):40万円
- 可処分所得(2年):300万円
最低弁済額の基準:1000万円 × 20% = 200万円 ・・・①
清算価値の基準:40万円 ・・・②
最低弁済額の基準(①)と清算価値の基準(②)を比較すると、①のほうが大きいので返済総額の最低限度額は200万円となります(小規模個人再生なので可処分所得の基準は参照しません)。
また、下記の式によって弁済率は20%と算出されます。
200万円(返済総額の最低限度額) ÷ 1000万円(確定債権額) = 20%
Case.02
- 小規模個人再生
- 負債額(確定債権額):1600万円
- 保有財産(清算価値):400万円
- 可処分所得(2年):200万円
最低弁済額の基準:300万円 ・・・①
清算価値の基準:400万円 ・・・②
最低弁済額の基準(①)と清算価値の基準(②)を比較すると、②のほうが大きいので返済総額の最低限度額は400万円となります(小規模個人再生なので可処分所得の基準は参照しません)。
また、下記の式によって弁済率は25%と算出されます。
400万円(返済総額の最低限度額) ÷ 1600万円(確定債権額) = 25%
Case.03
- 給与所得者等再生
- 負債額(確定債権額):1000万円
- 保有財産(清算価値):40万円
- 可処分所得(2年):300万円
最低弁済額の基準:1000万円 × 20% = 200万円 ・・・①
清算価値の基準:40万円 ・・・②
可処分所得の基準:300万円 ・・・③
最低弁済額の基準(①)、清算価値の基準(②)、可処分所得の基準(③)を比較すると、③が最も大きいので返済総額の最低限度額は300万円となります。
また、下記の式によって弁済率は30%と算出されます。
300万円(返済総額の最低限度額) ÷ 1000万円(確定債権額) = 30%
Case.04
- 給与所得者等再生
- 負債額(確定債権額):1600万円
- 保有財産(清算価値):400万円
- 可処分所得(2年):200万円
最低弁済額の基準:300万円 ・・・①
清算価値の基準:400万円 ・・・②
可処分所得の基準:200万円 ・・・③
最低弁済額の基準(①)、清算価値の基準(②)、可処分所得の基準(③)を比較すると、②が最も大きいので返済総額の最低限度額は400万円となります。
400万円(返済総額の最低限度額) ÷ 1600万円(確定債権額) = 25%
上記のとおり弁済率は25%となります。
個人再生が妥当ではないケース
弁済率は清算価値や可処分所得によるところが大きく、場合によっては跳ね上がることがあります。
極端な例をあげますが、
- 小規模個人再生
- 負債額(確定債権額):1000万円
- 保有財産(清算価値):950万円
最低弁済額の基準:1000万円 × 20% = 200万円 ・・・①
清算価値の基準:950万円 ・・・②
このケースの場合、返済総額の最低限度額は950万円となり、弁済率は下記のとおりとなります。
950万円(返済総額の最低限度額) ÷ 1000万円(確定債権額) = 95%
1000万円の負債について950万円を返済する、すなわち減免される部分が50万円しかないということになるので、経済的メリットという点では個人再生を行なう理由がほとんど生じていないこととなります。
上記は極端な例ではありますが、財産を処分しないために破産ではなく個人再生を選択するようなケースにおいては、思ったほど経済的メリットを得られないことがあることにご留意ください。
さいごに
負債について大幅な減額をすることができる個人再生は債務を整理する上で有効な選択肢といえますが、再生計画によりいくらまで負債が減額されるのかについては専門家でないと判断が難しいものです。
東京・恵比寿にある弁護士法人鈴木総合法律事務所では、個人再生事件の解決について多数の実績を有しております。個人再生を検討されている方は是非一度ご相談ください。