犯罪を犯してしまい逮捕されたり起訴されたりしてしまった場合、気になるのは前科や前歴です。
- そもそも「前科」「前歴」って何?
- いつまで残ってしまうのか?
- 他人に知られてしまう可能性はあるのか?
- 就職で不利になるのか?
- 勤務先を解雇されてしまうのか?
- 海外旅行できなくなるのか?
今回の記事では、前科と前歴の違い、前科や前歴による不利益等について解説いたします。
前科とは
前科とは、刑事事件で有罪判決が確定した履歴です。
犯罪行為をして起訴されると、被告人として刑事裁判が始まります。その裁判において有罪の判決が出て、その刑が確定すると前科という経歴がつきます。
逆に言えば、逮捕されただけでは前科はつきませんし、起訴されたとしても無罪となったのであれば前科はつきません。
前科がつく有罪判決の種類
前科のつく刑罰は以下の6種類です。
01.科料
科料は9,999円以下の金銭支払による刑罰です。
行政罰としての「過料」とは異なりますので混同しないようにしましょう。なお、過料では前科はつきません。
02.拘留
拘留は29日以内の身体拘束の刑罰です。
身柄拘束である「勾留」とは異なります(「勾留」されただけでは前科はつきません)。
03.罰金
罰金は1万円以上の金銭支払の刑罰です。
04.禁錮
禁錮とは強制労働を伴わない身体拘束の刑罰です。
後述しますが、執行猶予がついたことにより実際には禁錮刑に服していない場合であっても前科はつきます。
05.懲役
懲役は強制労働をともなう身体拘束の刑罰です。
こちらも禁錮と同様、執行猶予がついたことにより実際には懲役刑に服していない場合であっても前科はつきます。
06.死刑
死をもって償わせる刑罰です。
執行猶予
01.執行猶予とは
執行猶予とは、被告人が自主的に社会内で更生できると期待されるなど一定要件を満たす場合、刑の執行を猶予する制度をいいます。禁錮刑や懲役刑が言い渡された際、執行猶予が付くことがあります。
02.執行猶予と前科
執行猶予が付与されたことにより、実際には禁錮(懲役)に服さずに済んだというケースは多く見受けられます。
しかし、このようなケースにおいても有罪判決を受けて刑が確定したという事実には変わりはありません。そのため前科はつくことになります。
前科がつくか否かは有罪判決でて刑が確定したかどうかで決まるものであり、実際に刑に服したかどうかは関係がないということです。
略式裁判と前科
交通事故や暴行、侮辱罪などのケースにおいて略式起訴された場合、実際に法廷での審理は開かれません。捜査時も在宅事件だった場合、自宅へ罰金や科料の納付書が届き、支払いをしたら刑事事件は終了します。
そのため、刑事事件になった意識が薄く、刑罰を受けた感覚を持てない方が多数いらっしゃいます。
しかし、略式裁判であっても判決で科料や罰金の刑が確定しております。刑が確定している以上は前科はつくことになります。
反則金と前科
軽微な交通違反をしたケースにおいて、反則金の支払いを命じられるケースがあります。反則金制度は、金銭を納付することによって刑事手続きを免除してもらえる制度です。そのため、反則金の支払を命じられたケースでは事件はそもそも刑事事件になっていませんので前科が付くことはありません。
「反則金を支払いを命じられた」=「刑事事件になっていない」=「前科がつくことはない」ということになります。
前科のリスク・デメリット
前科がついた場合のデメリットについて確認していきましょう。
01.再犯時に罪が重くなる
前科がつくと次に罪を犯したときの刑罰が重くなる可能性が濃厚となります。
- 常習犯(累犯)の加重
- 量刑の加重
①は、前回の刑罰を受けてから一定期間内に犯罪を犯すと、「累犯」として刑罰が加重される可能性があるというものです。最大で2倍の長さの刑罰が適用される可能性があり、本人にとっては極めて大きな不利益となるでしょう。
②は、前科があると量刑の判断で不利に考慮される可能性があるというものです。特に同種犯罪(※)を繰り返していると、量刑が重くなりやすいでしょう。
※同種犯罪…窃盗や詐欺などの財産犯、暴行や傷害などの粗暴犯、痴漢や盗撮などの性犯罪など、同一の種類の犯罪をいいます。
02.資格制限、資格喪失
前科がつくと、一部の資格が制限されたり失われたりするリスクが発生します。
たとえば医師や看護師、薬剤師などの医療職の方が罰金以上の刑罰を受けると、その資格を一定期間停止されたり免許を取り消されます。弁護士等の士業も一定以上の刑罰を受けると資格に影響が及びます。また、公務員の方が刑事事件において有罪判決を受けこれが確定すると資格が失われる可能性があります。
前科によって影響を受ける可能性のある資格
- 国家公務員、地方公務員
- 自衛隊員
- 保育士
- 社会福祉士・介護福祉士
- 行政書士、司法書士、不動産鑑定士、宅地建物取引士、弁護士
- 質屋、貸金業者
- 建設業者、建築士
- 医師、歯科医師、薬剤師、看護師、准看護師、保険師、助産師、理学療法士・作業療法士、柔道整復師
前科がついた場合に資格に与える影響については、各資格について定める法律(医師法、弁護士法、国家公務員法等)で規定されております。
業務停止や名称利用停止の処分あればその期間が過ぎればその仕事を再開できますが、免許や資格そのものを取り消された場合にはその仕事に従事することはできなくなってしまいます。免許を再取得できるケースもありますが、欠格期間が生じる場合も多く、再取得申請が認められるとも限りませんので注意しましょう。
03.公民権が停止されるリスク
公民権とは、選挙権や被選挙権のことをいいます。
前科がついた場合、これらの権利を停止される可能性があります。
なお、前科がついたからといってすべてのケースで公民権が失われるわけではありません。公民権が失われるのは、以下に該当するケースに限定されます。
- 禁錮以上の刑に処せられその執行を終わるまでの者
- 禁錮以上の刑に処せられその執行を受けることがなくなるまでの者(刑の執行猶予中の者を除く)
- 公職にある間に犯した収賄罪により刑に処せられ、実刑期間経過後5年間(被選挙権は10年間)を経過しない者。または刑の執行猶予中の者
- 選挙に関する犯罪で禁錮以上の刑に処せられ、その刑の執行猶予中の者
- 公職選挙法等に定める選挙に関する犯罪により、選挙権、被選挙権が停止されている者
- 政治資金規正法に定める犯罪により選挙権、 被選挙権が停止されている者
04.懲戒解雇のリスク
多くの会社では、就業規則において「有罪判決が確定した場合(前科がついた場合)」には懲戒解雇できると定められています。このような定めがある場合は、勤務先を解雇される可能性があります。
なお、このような規定に基づく懲戒解雇が必ずしも有効になるとは限りません。刑事事件が軽微で会社への影響がほとんどないにもかかわらず解雇された場合には不当解雇となる可能性もあります。軽微な前科を理由に勤務先から解雇を言い渡された場合には弁護士にご相談ください。
05.就職や結婚に不利になる
前科がつくと就職や結婚で不利になる可能性があります。
先に説明したように医療職や弁護士などで資格が制限されると、その期間はその仕事ができません。
また、ニュースになるような犯罪を犯してしまった場合、実名が報道されます。ほとんどの場合、ネット上に実名と犯罪内容等が残るので、応募先の企業、交際相手やその家族などがネット上で実名検索した場合に、前科を知られてしまう可能性が高くなります。
結婚や就職に多大な悪影響を及ぼしてしまうといえるでしょう。
06.海外渡航制限のリスク
前科がある場合、出国先によってはビザが出ず渡航制限される可能性があります。
前科情報の管理
01.管理場所、管理目的
前科に関する情報は、捜査機関(警察や検察)、本人の本籍地のある市区町村で管理されています。
ただし、高度にプライベートな情報なので、外部に公開されることはありません。情報の保管や管理目的も定められており、目的外の利用は認められません。
- 警察の目的…犯罪捜査の資料に活用する
- 検察の目的…犯罪捜査の資料や裁判の量刑を決める資料に利用する
- 市区町村の目的…選挙権や被選挙権の有無を判断するため(前科情報にもとづいて犯罪人名簿を作成する)
02.前科は消せるのか?
上述のとおり、前科がついた状態ではいろいろな不利益を受けることとなります。そのため、前科を消したいと考える方は少なくありません。それでは前科を消すことはできるのでしょうか?
残念ながら、前科を消すことは不可能です。
前科の情報は、本人が死亡するまで(戸籍が除籍されるまで)、捜査機関のデータベース上に残されます。そのため、有罪判決が確定したのであれば、前科は一生ついてまわると覚悟しなければなりません。
前歴とは
前科とよく似た概念(言葉)として前歴があります。
前歴とは、犯罪の嫌疑をかけられて刑事事件になった経歴のことをいいます。逮捕されただけで前歴はつきますし、警察沙汰となり厳重注意されただけでも前歴はつくこととなります。
前歴のリスク・デメリット
前歴によるリスク、デメリットについてみてみましょう。
01.捜査機関に記録が残る
前科や前歴の情報は捜査機関におけるデータベースで管理されており、前歴がつくと警察や検察に記録が残ります。
なお、前歴情報も前科情報と高度にプライベートな情報なので、捜査機関は捜査や量刑判断などの限定された目的にしか利用されません。一般に公開される可能性はありませんし、開示請求することもできません。
参考までにですが、捜査機関では前歴のことを「犯罪経歴」や「犯歴」と呼んでいます。
02.報道される可能性はある
前歴情報は公開されませんが、刑事事件を起こすと地域や全国へ報道される可能性があります。特にセンセーショナルな事件の場合、新聞やネット、テレビなどで大々的に報道され、全国から注目されてしまうリスクが生じるでしょう。
また、ニュースになり情報がネット上に拡散されると実名と内容が半永久的に残ってしまいます。将来就職しようとするときなどに企業側が実名検索すると、前歴を知られて採用を差し控えられる可能性もありえます。
03.別の事件で不利になる可能性がある
前科ほどではありませんが、前歴がついた場合にも次に事件を起こしたときの評価に影響する可能性があります。過去に刑事事件を起こして注意されたり不起訴処分となったりしたにもかかわらず、再度事件を起こすと反省がないと判断されやすいためです。
具体的には以下のようなリスクが高まります。
- 身柄拘束されやすくなる。前歴がない場合には在宅捜査にしてもらえる事件でも、逮捕勾留されての捜査となる可能性があります。
- 起訴されやすくなる。前歴がなければ不起訴にしてもらえるケースでも、起訴される傾向にあります。
- 刑罰が重くなりやすい。前歴がない方と比べて刑罰が重くなる可能性があります。
なお、前歴は判決が確定した「前科」とは異なります。必ず起訴されるとは限りませんし刑罰が必要的に重くなるわけでもありません。前科のリスクと比べれば前歴が与える悪影響は低いといえるでしょう。
前科と前歴の違い
最後に、前科と前歴の違いをまとめておきます。
前科 | 前歴 | |
つく場面の違い | 刑事事件で有罪判決が確定したとき | 何らかのかたちで刑事事件に関与した |
選挙権や被選挙権への影響 | ある | ない |
各種資格への影響 | ある | ない |
解雇や就職への影響 | ある | 場合によってはある |
次に犯罪行為を犯したときの影響 | 大きい | 小さい |
海外渡航への影響 | ある | ない |
01.つく場面
前科と前歴では「つく場面」が異なります。
前科の場合、刑事事件で有罪判決が確定したときにつきます。一方で、前歴は何らかのかたちで刑事事件になったらつきます。逮捕されただけで不起訴処分になった場合、前歴はつきますが前科はつきません。
02.選挙権や被選挙権への影響
前科がつくと、一定期間選挙権や被選挙権が停止される可能性があります。つまり選挙に立候補したり投票したりできなくなるケースがあります。選挙権や被選挙権が停止される期間や条件は、犯罪の種類によっても異なります。
他方で、前歴だけで済んだ場合は、選挙権や被選挙権は停止されません。
03.資格への影響
前科がつくと、公務員や医師、弁護士などの資格に影響が及ぶ可能性があります。資格を失うと、その仕事を続けられなくなって多大な影響が及ぶでしょう。なお、逮捕されても不起訴処分を獲得できれば、前科はつかないので資格を失うこともありません。医師や看護師、薬剤師などの医療職、公務員の方は刑事事件の加害者になってしまったときは、すばやい対応をする必要があります。
他方で、前歴だけで済んでいる場合は、資格への影響はありません。
04.解雇や就職への影響
前科がつかなければ、基本的に解雇や就職への法的な影響はありません。多くの企業の就業規則においても「有罪判決が確定したとき」に懲戒解雇できると定められています。刑事事件になっても有罪にならなければ解雇はされないと考えてよいでしょう。
なお、前歴の場合であっても経営者側に法的知識がなければ解雇通知を出される可能性があります。退職勧奨を受ける可能性もあり、必ずこれまでとおり働けるとは限りません。また、ネットニュースなどで逮捕や犯罪内容が実名付きで報道されると、次に就職する際に不利になる可能性があります。
05.次に犯罪を犯したときへの影響
前科がつくと、執行猶予がつかなくなったり累犯加重されたりして次に犯罪行為をしたときへの影響が大きくなるケースがあります。一方、前歴であれば法律的な規定は適用されません。とはいえ実務上は処分が重くなるリスクはあるので全く影響がないと言い切れるものでもありません。
06.海外渡航への影響
前科がつくと、海外渡航が難しくなる可能性があります。
他方で、前歴だけで済んでいるのであれば、海外渡航への影響はありません。海外旅行、出張、移住なども自由にできます。
前科・前歴のリスクを無くす方法
前科及び前歴の情報を事後的に消すことはできません。
前科がつくことによるリスクを避けるためにできることは、刑事事件の被疑者となった際に速やかに不起訴処分を目指すことだけです。不起訴となれば刑事事件は始まらないので、前科がつく可能性は0%となります。
しかし、特に身柄拘束される事件の場合、逮捕から起訴決定までの期間は最大23日と短期間です。その間に被害者と示談する等の対応を終えなければ不起訴処分の獲得は難しいものとなります。
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