勤務先が破綻してしまった場合、未払いの給与はどうなってしまうのでしょうか?
勤務先が破産する前であれば交渉や裁判で支払ってもらえる可能性がありますし、破産となってしまっても優先的に弁済を受けることは可能です。
また、国の実施する未払賃金立替制度を使って給料の一部を支払ってもらう方法もあります。
今回の記事では、勤務先が破綻してしまったケースで未払の給与を回収する方法について解説いたします。
会社が破産する前の場合
勤務先の会社が破産していないのであれば、下記の方法で給料の支払いを請求することができます。会社には給与の支払義務があるからです。
毎月の給料だけではなく未払いの賞与・ボーナス、退職金についても請求することができます。
01.一般的な給料の請求方法
会社に対し内容証明郵便を送付し給料を支払うよう求めましょう。
払われなければ早急に訴訟を起こすようお勧めします。訴訟で判決が出れば会社の資産を差し押さえて未払いの賃金を回収できます。
02.急ぐ場合には仮差押
訴訟をしている間に他の従業員が先に給料を受け取ったり他の債権者が会社の資産を引き揚げてしまったりする可能性もあります。会社役員が財産を持って逃げてしまうこともあるでしょう。
このような場合に備え、会社の資産を仮差押しておく方法が有効です。
仮差押とは、裁判の判決が確定するまでの間、債務者が財産を動かせないように凍結させる手続きです。仮差押さえしておけば勤務先は勝手に財産を処分できませんし第三者が持っていくこともできません(第三者に奪われるリスクもありません)。
とはいえ仮差押には担保が必要ですし手間がかかります。未払い給料の金額次第ではありますがほとんどの場合においてはコスト面でマイナスとなってしまうことでしょう。
会社が破産した場合
会社が破産してしまった場合は給料はどうなるのでしょうか?
01.裁判では回収できない
会社が破産申立をし手続開始決定が出てしまうと、裁判で給料を回収することはできなくなります。
その理由は従業員も会社の債権者にあたるためです。会社に対して未払賃金という債権を有する以上、当然に会社の債権者となります。
債権者となった以上は破産法の手続きに則って対応しなければなりません。勝手に資産を差し押さえるということができなくなります。
02.財団債権
未払の給料(給与債権)は、破産法上「財団債権」として扱われます。
財団債権は破産法において最優先して支払われる債権です。配当まで待つ必要がなく随時支払を受けることができます。
なお、給料のうち財団債権となるのは以下の部分です。
- 破産手続き開始決定前3ヶ月の未払い給料
- 上記と同額の退職金
つまり、会社が破産を申し立てて破産手続開始決定がでた時点から起算して3ヶ月分の給料及びこれと同額の退職金については破産手続きに則らずに支払ってもらえると考えましょう。
財団債権に該当する給料については、破産手続きの中で破産管財人から支払ってもらうことができますが、財団債権には給料債権だけではなく未払いの税金なども含まれます。具体的な支払時期や方法については調整が必要となるでしょう。いつどのような形で支払ってもらえるのかについては破産管財人へ問合せをしてみてください。
03.優先的破産債権
給料や退職金のうち、財団債権にならない部分については優先的破産債権となります。優先的破産債権とは一般的な債権より優先して配当を受け取れる債権です。
財団債権とは異なり、配当を無視して先に支払を受けることはできません。ただ配当が行われるときには一般の売掛債権などより優先して支払を受けられるので回収の可能性は高くなります。
給料のうち優先的破産債権となるのは、「破産手続開始決定の3ヶ月より前に発生した給与債権」です。退職金についても優先的破産債権となるケースが多いでしょう。優先的破産債権については破産手続きの終盤で配当が行われるときに破産管財人から支払われます。とはいえ全額の支払いが受けられるケースはレアです。
04.資金が残っていなければ支払を受けられない
財団債権や優先的破産債権は手続き上優先的に支払われるのですが、そもそも会社に財産が残っていなければ支払を受けることはできません。通常、破産する会社にはほとんど資金が残っておりませんので、破産手続きにおいて未払の給与を全額支払ってもらえるということはまずありません。
会社が破産を申し立てる前に交渉や訴訟などによって支払を受けておくのが得策といえます。
会社が民事再生を行なった場合
経営不振の企業が、破産ではなく民事再生をとることで企業再建を図ることもあります。
民事再生は、破産とは異なり会社を存続させる倒産手続きです。民事再生を選択した場合は抱えている負債が所定の割合に圧縮されます。圧縮された金額を支払うことで法人は抱えていた負債を免れることができるのです。
なお、未払いの給料については一般優先債権として扱われます。一般優先債権は民事再生手続きでの減額の対象にはなりませんので全額を支払ってもらうことが可能です。
とはいえ、現実には企業がこれから経営を立て直しを図るために従業員に対し給与の減額を求めることがほとんどです。この会社側の要請に対し大半の従業員が応じるようです。従業員としても会社を存続させる方が将来の利益となる可能性が高いためです。
未払賃金立替制度を利用する
会社が破綻する際、社内には資産が残っていないことがほとんどです。財団債権扱いとなるはずの給与ですら全額を払ってもらえない可能性もあります。
会社自身に支払能力がない場合、国が実施する未払賃金立替制度を利用すれば未払給与の一部について支払を受けることができます。
01.未払賃金立替制度とは
未払賃金立替払制度とは、事業者が倒産などの事情で従業員に給料を払えないときに国が立替払いをする制度です。独立行政法人労働者健康安全機構が運営しています。
この未払賃金立替払制度を利用すれば一定額までは国から支給してもらうことができます。
02.未払賃金立替払制度を利用できるケース
未払賃金立替払制度は、会社が破産や民事再生などの法的手続を行った場合はもちろんのこと労基署へ申告して事実上倒産したと認定を受けた場合にも利用することができます。正社員だけではなくアルバイトやパートであっても条件を満たせば支給を受けることができます。
未払賃金立替制度が適用される要件は以下のとおりです。
- 雇用主が労災保険の適用事業者で、1年以上事業を継続してから倒産した
- 破産や民事再生の申立時、労基署への倒産申請時から起算して6ヶ月前の日から2年の間に退職した
03.支払われる給料の範囲
未払賃金立替制度によって支払われる給料は「退職6ヶ月前までの分」に限られます。それより前に未払いが発生していても立替は受けられないので注意しましょう。
また、支給対象となるのは給料と退職金です。ボーナスや経費、解雇予告手当などの臨時で支払われる金銭については立替払いの対象とはなりません。
04.限度額
また、立替を受けられる金額は未払い金額の8割であり全額ではありません。労働者の年齢に応じた上限額も設定されているので注意が必要です。
【未払賃金立替の限度額】
退職日の年齢 | 未払賃金総額の限度額 | 未払賃金立替額の限度額 |
45歳以上 | 370万円 | 296万円 |
30~45歳未満 | 220万円 | 176万円 |
30歳未満 | 110万円 | 88万円 |
05.未払賃金立替払い制度の利用方法
未払賃金立替制度の利用方法は、会社が法的に倒産したのか事実上の倒産なのかで手続きが異なります。
法的な倒産のケース
会社が破産や民事再生、特別清算などを行った場合(法的倒産の場合)は、裁判所や管財人から証明書を交付してもらいます。これをもとに立替払い請求書などの書類を作成し機構へと申請します。
事実上の倒産のケース
法的な手続をとらず労基署で「事実上の倒産」と認定してもらった場合は、会社が労基署へ申請をして「事実上の倒産」についての認定を受けなければなりません。認定通知書が交付されてから労働者が労基署へ確認の申請を行います。
労基署から確認通知書が届いたら立替払いの請求書を提出し機構へ送付しましょう。
以上のとおり、未払賃金立替制度は基本的に労働者自身が申請手続をしなければなりません。会社が代わりに対応してくれるものではないので注意が必要です。手続きについて不明な点がある場合は、労働者健康安全機構に確認しながら手続きを進めましょう。
【労働者健康安全機構の連絡先】
〒211-0021
神奈川県川崎市中原区木月住吉町1番1号
独立行政法人 労働者健康安全機構
電話番号:044-431-8600
URL:https://www.johas.go.jp/tabid/687/Default.aspx
早めに弁護士に相談を
会社が破綻してしまった場合、速やかに然るべき対処をしておかないと非常に大きな不利益を被ることとなります。
東京・恵比寿にある弁護士法人鈴木総合法律事務所では債権回収の事案に力を入れて取り組んでおります。勤務先から未払の給与を回収したいとお考えの方はお気軽にご相談ください。