交際相手と将来の結婚を約束しあったとしても、すべてのカップルがめでたく結婚できるとは限りません。さまざまな事情により破局してしまうカップルも多いです。
なお、破局したカップル間において婚約が成立していた場合、婚約解消、婚約破棄を理由として婚約破棄された相手方から慰謝料を請求される可能性があります。
もちろん当然に慰謝料が発生するわけではありませんが、万が一相手方から請求を受けてしまったら、どうしたらよいのでしょう。
今回の記事では、婚約の成立条件や婚約破棄の条件、慰謝料の相場、婚約破棄後の結納金や婚約指輪の処理方法について詳しく解説します。
婚約とは
婚約の破棄、婚約の解消を理由とした慰謝料が発生するには、「婚約」が成立している必要があります。まずは法律上「婚約」とはどういった状態なのか、理解しておきましょう。
婚約とは「将来の婚姻の予約」です。わかりやすくいうと「将来結婚をする約束」であり、一種の契約です。契約がいったん成立すると、一方的な破棄はできません。
婚約はお互いの意思の合致によって成立するので、「契約書」にする必要はなく、いわゆる「口約束」でも成立します。ただし単に「結婚しよう」とひと言交わしただけでは「婚約が成立した」とは評価されにくくなっています。
01.婚約が成立する条件
婚約が成立したといえるためには、以下のような客観的外形的な事情が必要です。
- 結婚式の予約をしていた
- 婚約指輪の受け渡しをした
- 結納の儀式を行った
- お互いの親へ婚約者として紹介した
- 将来の結婚を前提に性関係を持ち同居していた
02.婚約が成立しないケース
以下のような場合には「婚約」が認められません。
- 単に恋人同士として同棲していた
- 親や友人には結婚することを話していない
- 婚約指輪、結婚式、結納、新婚旅行など結婚に関する具体的な行動をしていない
婚約破棄で慰謝料が発生する条件
婚約が成立していないのであれば、婚約が前提となる婚約破棄も成立しないので慰謝料は発生しません。
また、婚約が成立していたとしても、婚約を破棄するのに正当な理由があれば違法行為にはならないのでやはり慰謝料は発生しません。
これらを逆に言えば、婚約破棄で慰謝料が発生するには以下の2つの条件を満たす必要があります。
- 婚約が成立している
- 正当事由なしに破棄した
婚約破棄の正当事由とは
婚約破棄の正当事由とは「婚約を破談にしてもやむを得ない事情」のことを言います。たとえば以下のようなケースでは正当事由が認められます。
01.相手から暴力を振るわれた
相手から暴力を受けた場合には婚約を破棄しても慰謝料を支払う必要がありません。むしろ相手に慰謝料請求できる可能性があります。
02.相手が不貞をした
相手が別の異性と性関係を持ち「不貞」をはたらいた場合にも婚約破棄の正当事由が認められます。慰謝料を払う必要はなく、むしろ相手に慰謝料請求可能です。
03.相手から侮辱された
相手から自分や自分の実家を侮辱されたり異常な束縛を受けたりして「モラハラ被害」を受けた場合にも、婚約破棄の正当事由が認められます。
04.相手が著しく非常識な言動を行った
結婚式の準備中やデート中などに相手が著しく社会常識を逸脱する行動をとると、婚約破棄もやむをえない正当事由が認められやすくなります。
05.相手の収入が激減した、収入がなくなった
相手に著しい減収があると、婚姻後の生活に不安が生じるので婚約破棄の正当事由が認められます。
06.相手が重大な病気になった、障害者となった
相手が病気やけがによって身体障害者や精神障害者となった場合、人生の伴侶とすべきかどうかについて再検討する必要性があり、婚約破棄に正当な理由が認められます。
07.相手が行方不明になった
相手が行方不明になった場合、結婚は不可能になるので破棄が認められます。
08.相手が性的な無能者である事実が発覚した
相手が性的な無能者であるとわかったら、子どもを作れない可能性が高くなるため婚約破棄が認められます。
上記の事情が存在するのであれば、婚約破棄を理由に相手方から慰謝料を請求されたとしても支払いに応じる必要はありません。
正当事由のない婚約破棄の例
「婚約破棄に正当な理由がない」と判断されてしまうのはどのようなケースでしょうか?
- 性格が合わないと感じた
- 家柄が合わない
- 両親に反対された
- 他に好きな人ができた
- 相手と思想や宗教が合わない
- やっぱりもう少し独身でいたいので、結婚したくなくなった
このような理由だと、婚約破棄をする正当性が無いと判断されやすいといえます。そのため、慰謝料を請求された場合は払わなければならない可能性が高いでしょう。
相手からの破棄であっても慰謝料が発生するケース
相手からの婚約破棄であっても、こちら側に落ち度がある場合は慰謝料を支払わなければなりません。
具体的には、下記のような事情があると、相手から婚約破棄されたうえに慰謝料も請求される可能性があります。
01.相手に暴力を振るった
こちらが相手に暴力を振るったために相手が婚約破棄した場合、慰謝料を払わねばならない可能性があります。
02.相手にモラハラ行為を行った
こちらが相手を侮辱したり差別したりしてモラハラ行為を行ったら、慰謝料請求される可能性があります。
03.別の異性と不貞した
こちらが別の異性と性関係を持ったために相手が婚約破棄した場合、慰謝料を払わねばなりません。
婚約破棄の慰謝料相場
婚約破棄によって慰謝料が発生する場合でも、必ずしも相手の請求通りの金額を支払う必要はありません。相手の請求額が相場を超える場合、少なくとも相場までは減額が可能です。
それでは婚約破棄の慰謝料はどのくらいなのでしょうか?
裁判例では、「50~200万円程度」とされるケースが多数です。もちろん個別具体的な状況に応じて金額が算定されます。
01.婚約破棄で慰謝料が高額になる条件
以下のような事情があると、婚約破棄の慰謝料は高額になる傾向があります。
- 婚約期間、交際期間が長い
- 破棄された側の年齢が高い
- 結婚の準備が相当進んでいた
- 破棄された側が婚約を機に退職した
- 妊娠、中絶、出産した
- 婚約破棄によって精神状態が悪化した
- 何度も性関係を持っていた
- 破棄した側の社会的地位や資産が高い
02.婚約破棄で慰謝料が低額になる場合
他方で、以下のような事情があると、慰謝料の金額は低額となる傾向にあります。
- 被害者側にも問題があった
- 婚約期間、交際期間が短い
- 仕事を辞めていない、精神状態も悪化していないなど破棄による影響が小さい
- 一応婚約が成立しているけれども準備もあまり進んでおらず、周囲にも広くは知られていなかった
慰謝料を算定する際は、上記のような事情を評価・勘案して、適正な金額を定める必要があります。
婚約破棄後の結納金の取り扱い
婚約破棄した場合、既に受け渡しをしている結納金はどのように処理すればよいのでしょうか?
結納金は、結婚することを条件として贈与されるお金です。
婚約破棄すると、前提となる条件が失われるので贈与の効力もなくなり、返還しなければならないのが原則です。
ただし、一方に婚約破棄の責任がある場合は、取扱いが異なってきます。
『自ら婚約を破談にしておきながら結納金の返還のみを求めるのは不当と考えられるので、破棄原因を作った側は「信義則」により相手に結納金の返金請求ができない(大阪地裁昭和41年1月18日)』と判断した裁判例があり、これと同様の判断を下した事例も多々あります。
結納金を贈与した側が正当な事由なしに婚約破棄した場合は、相手方に対し結納金の返金を請求できないものとされています。
婚約破棄後の婚約指輪の取り扱い
婚約した際、男性側から女性側に対し、婚約した証として「婚約指輪」を送ることが多いです。婚約破棄となった場合、婚約指輪はどのように扱われるのでしょうか?
結納金と同様、婚約指輪も「結婚することを条件として贈与する物」です。結婚という前提条件が失われたら贈与の効果がなくなるので、返還するのが原則です。
ただし、こちらも結納金と同様、一方に破棄の原因がある場合には取扱いが異なります。男性側が自ら婚約を破談にさせておきながら婚約指輪の返還を求めるのは不当だからです。男性側が正当事由なしに婚約破棄した場合、信義則上、相手方に婚約指輪の返還を求めることはできません。
また、婚約指輪の返還請求ができるケースであっても、請求できるのは「指輪そのものの返還」であり、「指輪購入代金」を請求できるわけではありません。婚約指輪が返ってきても、男性にとっては使い途がないケースがほとんどです。男性側は、相手女性と話し合い、お金で返してもらうよう依頼して解決してもかまいません。
婚約破棄で慰謝料請求されたときの対処方法
婚約破棄を理由に慰謝料を請求された場合は、どうすればよいのでしょうか。
01.婚約が成立しているか検討する
まずは婚約が成立しているといえるのかしっかりと検討しましょう。結婚に向けた具体的な行動をとっておらず「婚約が成立していない」なら慰謝料を拒絶できます。
02.破棄の正当事由がないか検討する
婚約が成立している場合、婚約破棄に正当事由がないか確認しましょう。正当事由があれば、慰謝料を払う必要はありません。
相手の責任で破談になった場合、逆に相手に慰謝料請求ができることもあります。
03.慰謝料が発生していないならはっきり断る
慰謝料が発生していないなら、はっきりと相手に「慰謝料支払い義務がないので請求には応じられません」と通知しましょう。
04.慰謝料が発生しているなら減額交渉をする
正当事由なしに婚約を破棄して慰謝料を払わねばならない状況なら、相場の金額になっているかどうか検討しましょう。減額の余地があれば交渉によって減額すべきです。
05.合意書を作成する
話し合って合意ができたら、慰謝料支払に関する合意書を作成します。正当事由があり支払に応じる必要がない場合でも「慰謝料支払義務がない」と確認する合意書を作成しておいた方が安心です。
慰謝料が発生するケースでは、合意書作成後、速やかに支払いをしましょう。
さいごに
婚約破棄を理由として慰謝料請求を受けた場合は、そもそも支払義務があるのか、義務があるとしても減額できないか検討が必要です。
当事務所では男女トラブルの解決に積極的に取り組んでいますので、慰謝料請求を受けてお困りの際には、お気軽にご相談ください。