窃盗や詐欺、暴行や傷害など。刑事事件と対象となる犯罪は多々あります。
刑事事件(刑事手続)においては、警察、検察、裁判所の3機関が関与しますが、これらの機関はそれぞれ独立した立場で異なる役割を担います。
今回の記事では、刑事手続における警察、検察、裁判所の関係性や役割についてわかりやすく解説します。刑事手続に関心のある方はぜひ参考にしてみてください。
1.警察
警察は、総務省の管轄下におかれる国家公安委員会のもとに存在する組織です。
国家公安委員会の管理のもとに警察庁がもうけられており、警察庁は広域な組織犯罪に対応するための警察全体の態勢つくりや犯罪鑑識、犯罪統計の作成など、警察庁の事務について都道府県警察を指揮監督しています。
1-1.刑事手続における警察の役割
警察は、犯罪行為をしたと疑われる被疑者について捜査を進めたり、被疑事実が濃厚となった被疑者を逮捕し取り調べを行うことで犯罪の全容を暴き、検察官が公判(刑事裁判)を維持できるだけの証拠を集めたりすることが主たる役割となります。
警察が逮捕した被疑者については、48時間以内に検察官へと送致しなければなりません。引き続き勾留によって身柄拘束を続けるかどうかの判断を検察官へと委ねるためです。
また、警察署の中には留置場が設けられております。留置場は逮捕などによって身柄拘束をした被疑者が逃亡や証拠隠滅などをしないよう拘束する施設です。

1-2.警察で働く人
警察に勤めている人は警察職員という職名の公務員です。後述する検察官と異なり、法律の専門職というわけではありません。
1-3.警察の部署や役割
警察には捜査を行う部署以外にもいろいろな部署があり、それぞれ担当する事務・役割が異なります。
生活安全局
生活安全局は以下のような事務を執り行います。
- 犯罪、事故その他の事案に係る市民生活の安全と平穏に関すること
- 地域警察その他の警らに関すること
- 犯罪の予防に関すること
- 保安警察に関すること
刑事局
刑事局は以下のような事務を執り行います。
- 刑事警察に関すること
- 犯罪鑑識に関すること
- 犯罪統計に関すること
組織犯罪対策部
組織犯罪対策部は、以下のような事務を執り行います。
- 刑事警察に関する事務のうち国際的な犯罪捜査に関すること
- 刑事警察に関する事務のうち国際刑事警察機構との連絡に関すること
- 暴力団対策に関すること
- 薬物及び銃器に関する犯罪の取締りに関すること
- 組織犯罪の取締りに関すること(他局の所掌に属するものを除く)
- 犯罪による収益の移転防止に関すること
- 国際捜査共助に関すること
交通局
交通局は、交通安全など交通警察に関する事務を担います。
警備局
警備局は、警備に関する事務をつかさどります。
外事情報部
外事情報部は、外国人や活動本拠が外国にある日本人に関する事務を取り仕切ります。
警備運用部
警備運用部は以下のような内容を取り仕切ります。
- 警衛や警護に関すること
- 警備実施に関すること
- 警察法第71条の緊急事態に対処するための計画及びその実施に関すること
サイバー警察局
サイバー警察局は、以下のような事務を執り行います。
- サイバー事案に関する警察に関すること
- 犯罪の取締りのための情報技術の解析に関すること

2.検察
検察は、法務省の管轄下にある組織で、犯罪捜査を行ったり刑事裁判で被疑者を追及したりする役割を果たします。
検察を組織する人が検察官であり、検察官は検察庁に属しています。
2-1.刑事手続における検察の役割
刑事手続において、検察は以下のような役割を担います。
捜査
検察の役割には捜査段階のものと公判段階のものがあります。
捜査段階では警察へ実地の捜査を依頼したり、ときには自ら捜査したりします。たとえば検察官が自ら被疑者の取り調べを行うケースもありますし、証拠が不十分な点について、警察を指揮して補充捜査を行わせたりもします。
起訴するかどうかの判断
検察官の仕事の中で特に重要なのは、被疑者を起訴するかどうか決定することです。捜査が進んだら、被疑者を起訴して刑事裁判にするか、あるいは不起訴処分とするのか決めなければなりません。その権限を全面的に与えられているのが検察官です。
検察官は警察がそろえた証拠や自ら集めた証拠、被疑者の取調べ結果などにもとづいて被疑者を起訴するかどうかを判断します。
起訴するかどうかの判断は検察官の専権事項であり、警察には認められません。この点は警察と検察の大きな違いといえるでしょう。
公判(刑事裁判)
検察官は、公判段階の刑事裁判においても重要な役割を果たします。被告人の犯罪事実を明らかにして正しい判決を導くのが検察官の役割です。検察官は、刑事裁判において被告人を訴追(追及)する立場となります。
裁判所へ犯罪事実の根拠となる証拠を提出し、有罪であれば有罪認定をしてもらって適切な処罰を受けさせるのが検察官の仕事です。
他方で、警察は刑事裁判に関与しません。警察が刑事裁判に呼ばれるのは、取調べ状況を確認するための証人尋問などが主となります。
捜査段階では警察も検察も捜査を行うケースがありますが、公判段階になると、警察は関わりません。この点でも、警察と検察の役割は全く異なるといえます。

2-2.検察の組織
検察庁には最高検察庁、高等検察庁、地方検察庁、区検察庁があります。
最高検察庁は全国に1つですが高等検察庁は全国に8庁(支部6庁)あり、地方検察庁は50庁(支部203庁)、区検察庁は438庁あって、全国の管内に分かれて検察庁が設置されています。
2-3.検察官の種類
検察庁法にもとづいて、検察官は以下のように分類されます。
- 検事総長
- 次長検事
- 検事長
- 検事
- 副検事
上記のうち検事総長と次長検事、検事長については内閣が任命して天皇が認証します。検事は司法試験に合格して司法修習を終えた人や一定の法律職の経験者から任命されます。副検事は司法試験の合格者で公務員を3年以上経験しており審議会の選考を経た人から法務大臣が任命します。
また、検察官には、以下のような職名もあります。
- 検事正(地方検察庁の長)
- 次席検事(高等検察庁及び地方検察庁にそれぞれ1名)
- 三席検事(地方検察庁に1名)
- 部長(各検察庁の部の責任者、刑事部長や公安部長など)
- 支部長(高等検察庁支部および地方検察庁にそれぞれ1名)
- 上席検察官(区検察庁の長)

3.警察と検察の違い
警察と検察の主な違いについてまとめた表が以下のものとなります。
警察 | 検察 | |
所轄の省庁 | 総務省 | 法務省 |
組織する人 | 地方公務員・国家公務員 | 司法試験に合格した人など |
捜査に関する権限 | あり(主体的に捜査を行なう) | あり |
起訴するかどうかの決定 | なし | あり(起訴するかどうかは検察官の専権事項) |
公判(刑事裁判)段階でのかかわり | ない(証人として尋問されることがある) | 検察官が主体的に公判にかかわり公判を維持する役割を担う |
4.裁判所

刑事手続における裁判所は、刑事裁判を開いて罪を犯したと疑われる被告人を裁く場所です。
裁判所は独立した組織であり、総務省にも法務省にも属しません。独立した立場が保障されてこそ、適正な判断ができると考えられるためです。
刑事事件では、裁判所では刑事裁判が開かれて裁判官が、被告人が有罪か無罪か及び、有罪になった場合には量刑の内容も決定します。
4-1.裁判所の種類
裁判所には以下のような種類があり、取り扱う事件によって、審理が開かれる裁判所が異なります。
- 最高裁判所(東京に1つ)
- 高等裁判所(全国に本庁が8つ、支部が6つ)
- 地方裁判所(本庁が50、支部が203)
- 家庭裁判所(本庁が50、支部が203、出張所が77)
- 簡易裁判所(438庁)
4-2.三審制度について
日本の裁判では三審制度が採用されています。三審制度とは、1つの事件について第1審、第2審、第3審の原則として3回まで審理ができる仕組みです。
基本的には地方裁判所や家庭裁判所、簡易裁判所で第1審が開かれ、地方裁判所や高等裁判所で第2審、最高裁判所で第3審が行われます(ただし例外もあります)。
刑事裁判でも、原則として被告人や検察官は、同じ事件について3回まで審理を受けることができます。
4-3.捜査段階における裁判所・裁判官の役割
裁判官は捜査段階において事件に関わります。被疑者を逮捕する際の逮捕令状や、犯罪の証拠物があると考えられる場所の捜索差押令状などは裁判官が発布するためです。これらの発布を捜査機関の独断ではなく裁判所に担わせることで、捜査が適正に行われるように配慮されています。
なお、裁判官の発布した逮捕状がないと警察官であっても被疑者を逮捕できません(現行犯逮捕などの例外は除く)。また、捜索差押令状がないと目的場所の捜索や差し押さえはできません。
さらに裁判所の許可がないと被疑者や被告人を勾留できません。勾留決定が出なければ捜査段階でも被疑者の身柄が釈放され、捜査機関としては、後は在宅捜査をしなければならない状況になります。
4-4.保釈の許可も裁判官が行う
公判段階になると、裁判官は保釈の許可を出す役割を担います。
本人や弁護人から保釈申請があると、裁判官が保釈の可否を判断し、保釈が相当であれば保釈許可決定を下します。これにより、被告人は保釈されて身柄拘束から解放されます。


5.刑事事件の流れ
刑事事件の流れをみてみましょう。
5-1.逮捕

被害届や刑事告訴などによって犯罪が行われたと考えられる場合、警察や検察が捜査を開始します。
被疑事実がある程度固まったら、警察などが裁判官へ逮捕令状を請求し、逮捕状が発布されると警察などが被疑者を逮捕します。
5-2.勾留または釈放
被疑者が逮捕されると、警察は48時間以内に検察官へ身柄を送致しなければなりません。
検察官は、警察から被疑者の身柄の送致を受けると引き続いて勾留するかどうかを決定します。
勾留する場合は裁判所へ勾留請求を行います。裁判所が勾留決定を出せば、被疑者は引き続いて警察署の留置場で身柄を拘束されます。
勾留が認められない場合には、被疑者は釈放されて、捜査方法については在宅捜査となります。
5-3.捜査、起訴不起訴の決定
被疑者が勾留される期間は原則として10日間ですが、さらに10日延長できるので勾留機関は最長で20日間となります。この20日間までの間に検察や警察は捜査を行い、証拠を固めなければなりません。
被疑事実が明らかになれば検察官は起訴しますし、そうでなければ起訴しないこともあります。被疑事実があっても検察官が諸般の事情を考慮して、起訴しない決定を行うケースもありえます。
起訴されれば刑事裁判となりますが、起訴されなければ刑事裁判にはならず、刑事事件はいったん終了します。検察官の起訴しない決定を不起訴処分といいます。
なお勾留されずに在宅捜査になった場合、10日や20日などの期間制限はありません。捜査機関は適宜捜査を行い、最終的に検察官が起訴するかどうかを決定します。
5-4.刑事裁判
被疑者を起訴すると、被疑者は被告人の立場となって刑事裁判が開かれます。刑事裁判では検察官が被告人を追及し、被告人は弁護人に守られる立場となります。
刑事裁判では被告人が有罪かどうか、有罪であればどのくらいの量刑が相当か、が決められます。基本的には裁判官が有罪か無罪か、量刑などを決定します。
重大な事件になると国民から選ばれた裁判員が関与するケースもあります。
刑事裁判で有罪になると、被告人には刑罰が下されます。罰金刑であれば罰金を納付しなければなりません。禁固刑や懲役刑になると、執行猶予がつかない限り刑務所などの刑事施設へ入所して刑を受ける必要があります。

6.被疑者や被告人を守るのは弁護人
警察は被疑者にかかる被疑事実を暴き、検察は被疑者や被告人の責任を追及する立場です。また、裁判官は公正な立場から被告人の罪を裁く立場ですので、これらの3者は被疑者・被告人を守ってくれるわけではありません。
被疑者や被告人の人権を守るのは、弁護人の仕事です。
弁護人は被疑者がなるべく起訴されないように捜査段階から弁護活動を行います。たとえば弁護人には時間制限もなく捜査官の立会もなしに被疑者と接見することが認められています。また接見禁止がついていても弁護人だけは接見可能です。

公判段階になっても被告人を守るのは弁護人です。被告人にとって有利な証拠を集めるなどして無罪立証を行ったり、罪を認めるとしてもなるべく軽くなるように弁護活動を行ったりします。
犯罪の被疑者となって捜査対象となったり刑事裁判の被告人になったりしたら、早急に弁護士へ刑事弁護の相談をしましょう。恵比寿の鈴木総合法律事務所では刑事事件に力を入れて取り組んでいます。刑事裁判の被疑者・被告人となってお困りの際にはお早めにご相談ください。

