放火罪は、殺人罪と同等の法定刑が科される可能性のある重罪です。故意に建物に火を放つということは、自らの意思で多くの人を死の危険にさらすことなので、当然といえば当然です。本記事では、火災に関する罪とその懲役について、詳細に解説します。
【この記事がおすすめな方】
- 家族が放火罪や失火罪で勾留されてしまった方
- 警察や検察の言い分に納得のいかない方
- 火災に関する罪とその懲役・罰金について詳しく知りたい方
建物に火を放てば放火罪、不注意で火事を起こせば失火罪になると、漠然とイメージしている方は多いです。その認識は間違ってはいませんが、火災に関する刑法はややこしく、一般の方がその事件がどの罪にあたるのかを判断するのは困難でしょう。
そこで今回は、放火罪・失火罪をはじめとする「火災に関する罪とその懲役・罰金」について、詳細に解説します。
家族や友人・知人が火災に関する罪で勾留され、どうしたらいいのかわからない方は、まず弁護士にご相談ください。そして本記事が、そのきっかけになれば幸いです。
放火は故意か過失かで問われる罪が異なる

火災を起こしたり何かを燃やしたりした場合、故意か過失かにより、問われる罪が変わります。まずは、火災に関連する2つの罪「放火罪」と「失火罪」の分け方を、「火をつける意図」の有無から確認しましょう。
放火罪~故意の場合~
放火罪は、建物等に故意に火をつけた場合に適用されます。建物等に火をつければ多くの人の生命を危険にさらすことは、誰でも想像できるでしょう。そのうえで、故意に火をつけているわけですから、過失の場合に比べて罪は重くなります。
失火罪~過失の場合~
失火罪は、過失により建物等に火をつけてしまった場合に適用されます。寝たばこや料理中の思わぬ出火などによる火事は、たいていの場合、失火罪となるでしょう。
放火罪の種類

放火罪は火をつけた対象が何であったかにより、「現住建造物等放火罪」、「非現住建造物等放火罪」と「建造物等以外放火罪」に分かれます。
現住建造物等放火罪(刑法108条)
現住建造物等放火罪は、「放火して、現に人が住居に使用し又は現に人がいる建造物、汽車、電車、艦船又は鉱坑を焼損した」場合に適用されます。未遂でも罪に問われ、法定刑は「死刑または無期、もしくは5年以上の懲役」です。
「現住建造物等」には家やビルだけでなく、人がいる電車や艦船や鉱坑などが含まれます。
非現住建造物等放火罪(刑法109条)
非現住建造物等放火罪は、「放火して、現に人が住居に使用せず、かつ、現に人がいない建造物、艦船又は鉱坑を焼損した」場合に適用されます。法定刑は「2年以上の懲役」もしくは「6ヵ月以上7年以下の懲役」です。
「非現住建造物等」の典型例は、物置小屋や倉庫です。仮に火を放った時に人がいなかったとしても、普段は人がいる建物は非現住建造物等にはあたりません。
なお、非現住建造物等放火罪は、その建造物等を誰が所有しているかによって次の2つの罪に分かれます。
他人所有の非現住建造物等放火罪(刑法109条1項)
建造物等の所有者が他人だった場合、他人所有の非現住建造物等放火罪が適用されます。この場合、法定刑は「2年以上の懲役」です。
自分が所有している建物であっても、次の場合は他人所有と見なされ、他人所有の非現住建造物等放火罪が適用されます。
【他人所有と見なされる自分の建物】
- 差し押さえられている
- 賃貸している
- 保険をかけている
自己所有の非現住建造物等放火罪(刑法109条2項)
火を放ったのが自分が所有する非現住建造物等で、他人所有と見なされる条件にも当てはまらなかった場合、自己所有の非現住建造物等放火罪が適用されます。この場合、法定刑は「6ヵ月以上7年以下の懲役」です。
ただ、自己所有の建物に火をつけたとしても、不特定多数の人やその財産に危険が及ばなかった場合は罰せられません。例えば自己所有の空き家の壁や床が少し燃えた程度なら、放火罪とならない可能性があるのです。
建造物等以外放火罪(刑法110条)
「放火して、現住建造物等や非現住建造物等以外の物を焼損し、よって公共の危険を生じさせた」場合は、建造物等以外放火罪が適用されます。この場合も火を放った対象物が本人所有か否かにより、法定刑が変わります。
【建造物以外放火罪の法定刑】
自己所有の物に放火:1年以下の懲役、または10万円以下の罰金
他人所有の物に放火:1年以上10年以下の懲役

失火罪の種類

過失により建物その他を燃やしてしまうと、失火罪に問われることがあります。失火罪は過失の内容により「失火罪」「業務上失火罪」「重過失失火罪」の3つに分かれます。
失火罪(刑法116条)
①「失火により、現住建造物等又は他人の所有する非現住建造物等を焼損した場合」や②「失火により、非現住建造物等であって自己の所有するもの又は建造物等以外の物を焼損し、よって公共の危険を生じさせた場合」に失火罪が適用されます。失火罪の法定刑は「50万円以下の罰金」です。
ただ、過失の内容によっては後述する重過失失火罪が適用される可能性もあります。
業務上失火罪(刑法117条の2)
「失火罪にあたる行為が、業務上必要な注意を怠ったことによる」場合、業務上失火罪が適用されます。業務上失火罪の法定刑は「3年以下の禁錮または150万円以下の罰金」です。
例えば料理人が仕事中に不注意で火事を起こしてしまった場合は、業務上失火罪が適用される可能性があります。
重過失失火罪(刑法117条の2後段)
「失火罪にあたる行為が、重大な過失による」場合に適用されます。法定刑は「3年以下の禁錮または150万円以下の罰金」であり、失火罪よりも重いです。
火災に関連する罪

火災に関する罪には、放火罪や失火罪のほかにも次のようなものがあります。
【火災に関する罪】
- 延焼罪
- 消火妨害罪
- 激発物破裂罪、過失激発物破裂罪
- ガス漏出等罪、ガス漏出等致死傷罪
それぞれの罪の内容や法定刑について、ひとつずつ確認していきましょう。
延焼罪(刑法111条)
延焼罪は、①「自己所有の非現住建造物等放火罪又は自己所有の建造物等以外放火罪を犯し、よって現住建造物等や非現住建造物等(自己所有の非現住建造物等を除く)に延焼させた場合」②「自己所有の建造物等以外放火罪を犯し、よって他人所有の建造物等以外に延焼させた場合」に適用される罪です。
延焼の内容によって、法定刑は次の2つに分かれます。
【延焼罪の法定刑】
- 3ヵ月以上10年以下の懲役
自己所有の非現住建造物等放火罪もしくは自己所有の建造物等以外放火罪で発生した火が、現住建造物等もしくは他人所有の非現住建造物等に延焼した場合(①の場合)。
- 3年以下の懲役
自己所有の建造物等以外放火罪で発生した火が、他人所有の建造物等以外に延焼した場合
(②の場合)。
消火妨害罪(刑法114条)
消火妨害罪は、「火災の際に、消火用の物を隠匿し、若しくは損壊し、又はその他の方法により、消火を妨害した」場合に適用されます。法定刑は「1年以上10年以下の懲役」です。
激発物破裂罪・過失激発物破裂罪(刑法117条)
激発物破裂罪は、①「火薬、ボイラーその他の激発すべき物(激発物)を破裂させて、現住建造物等又は他人所有の非現住建造物等を損壊した場合」、②「激発物を破裂させて、自己所有の非現住建造物等又は建造物等以外の物を損壊し、よって公共の危険を生じさせた場合」に適用されます。これらの行為が過失によるときは、過失激発物破裂罪が適用されます。
法定刑は損壊した物が何だったかにより、放火罪や失火罪で適用される内容に準じます。
ガス漏出等罪・ガス漏出等致死傷罪(刑法118条)
ガス漏出等罪は、「ガス、電気又は蒸気を漏出させ、流出させ、又は遮断し、よって人の生命、身体又は財産に危険を生じさせた」場合に適用されます。同様の行為により、人を死亡させたり、傷害を負わせた場合は、ガス漏出等致死傷罪が適用されます。

懲役や罪名の決め手となる3つの関連用語

火災に関するさまざま罪とその重さは、どのように決まるのでしょうか。最後に、懲役や罪名の決め手ともなる3つ関連用語、「放火」「焼損」「公共の危険」について解説します。
放火
放火とは、目的物の焼損に原因力を与えることをいいます。これは、焼損が生じる可能性のある目的物に点火することを意味しますが、媒介物を介して目的物に点火する場合には、媒介物への点火も含むとされます。
焼損
焼損(しょうそん)とは、火が媒介物を離れ、目的物が独立に燃焼を継続するに至った状態をいいます。
公共の危険
公共の危険とは、人やその財産、建物が危険にさらされる可能性があることをいいます。公共の危険があったかどうかは、放火罪や失火罪の決め手となる重要な要素です。
放火罪や失火罪はややこしい…、弁護士にすぐ相談しよう

上記のとおり、火災に関する罪や法定刑は「火災を起こそう、対象物を燃やしてしまおう」という意図の有無、焼損や公共の危険の有無により、かなり細かく分かれています。一般の方が、放火・失火事件がどの罪にあたるのかを判断するのは困難でしょう。
もしも家族や友人・知人が放火罪や失火罪で勾留されてしまった場合には、すぐに弁護士に相談することをおすすめします。
なるほど六法を運営する「鈴木総合法律事務所」は放火・失火事件に強い法律事務所として、一定の評価をいただいております。これまでも、難しい放火・失火のこともわかりやすくお話しし、勾留された方が不当な処分を被ることのないよう、都度最適な対応を取ってきました。
放火や失火事件によりお困りの方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

