先日、不良グループが、対立するグループとの喧嘩をするために釘バットを用意していたというニュースがありました。釘バットとは、野球で使用する木製バットの先端に釘を多数打ち込んだ凶器のことを言います。
釘バットのような凶器を作成した場合、犯罪は成立するのでしょうか?
今回の記事では、凶器を作成、携帯、使用することにより成立する罪について弁護士が解説します。
凶器を製造・所持することは罪になるの?
01.凶器とは
凶器とは、人を殺傷するのに使う道具・器具のことをいいます。
調理の際に使う包丁であっても人を殺傷する目的で使用すれば凶器に該当します。
また、人を殺傷する目的で作成した道具も凶器に該当します。たとえば、野球で使用する木製バットの先の部分に無数の釘を打ち付けたものを釘バットと言いますが、形状からしてスポーツで使用するものではなく、明らかに他人を傷つけるためのものであるため、通常は凶器として扱われます。
02.凶器を製造、所持することで犯罪は成立するの?
凶器を製造、所持、携帯することで犯罪は成立するのでしょうか?
答えはNoです。作成した凶器が鉄砲にもクロスボウにも刀剣類にも刃物にも該当しない場合には、銃砲刀剣類所持等取締法(銃刀法)は適用されないため、所持しても処罰されることはありません。
たとえば釘バットを作成した、所持しただけであれば銃刀法違反とならないので罪には問われないのです。
また、武器等製造罪の処罰対象になるのは以下のものに限られます。
- 銃砲
- 銃砲の弾丸
- 爆発物
- 爆発物を投下、発射する機械器具
- 猟銃や空気銃など
そのため、凶器を製作・所持したとしても、これらに該当しなければ処罰されることはないといえます。
凶器を携帯することで成立する犯罪
凶器を製造、所持したとしても犯罪は成立しないことは上記で説明しました。それでは、携帯した(持ち運んだ)場合はどうでしょうか?
この場合は以下の犯罪が成立する可能性があります。
- 軽犯罪法
- 凶器準備集合罪
- 凶器準備結集罪
- 暴行罪・障害罪
以下、具体的に見ていきましょう。
軽犯罪法
釘バットのような凶器を携帯した場合、凶器携帯の罪という軽犯罪法に規定される犯罪が成立する可能性があります。
軽犯罪法第1条第2項では、正当な理由がなくて刃物、鉄棒その他人の生命を害し、又は人の身体に重大な害を加えるのに使用されるような器具を隠して携帯していた者は拘留又は科料に処する、と規定されております。
凶器は「刃物、鉄棒その他人の生命を害し、又は人の身体に重大な害を加えるのに使用されるような器具」に相談ことを凶器と言います。
釘バットは、人の生命や身体に危険を及ぼす可能性の高い武器(凶器)といえるので、軽犯罪法第1条第2項の規制対象になります。釘バットを外で持ち歩いた場合は、凶器携帯の罪で処罰される可能性があると考えましょう。
01.正当な理由について
軽犯罪法第1条第2項は、正当な理由があれば、凶器を携帯したとしても処罰されないとされております。正当な理由とは、凶器を隠匿携帯することが、職務上又は日常生活上の必要性からして社会通念上相当といえる事情です。
正当な理由があるかどうかについては、「その器具の用途や形状・性能、隠匿携帯した人の職業や日常生活との関係、隠匿携帯の日時・場所、態様、周囲の状況などの『客観的要素』」と、「隠匿携帯の動機、目的、認識等の『主観的要素』」を総合的に勘案して判断することとされております(最判平成21年3月26日)。
たとえば、自宅で使うためにカッターナイフやはさみを買って家に持ち帰る場合や、野球をする目的で自宅から野球場へバットを持って行く場合は、正当な理由があると判断されます。
なお、釘バットの場合、普通のバットとは異なり釘を打ち付けて人の体に危害を加えるべく加工されております。その使用目的も他人の身体にに危害を加えるためというのが明白です。そのため、釘バットを携帯した場合、正当な理由はほぼ認められないと考えるべきです。
02.軽犯罪法の刑罰
軽犯罪法違反の刑罰は、拘留又は科料です。
拘留とは29日以下の期間、身柄拘束される刑罰です。科料は9,999円までの金銭支払の刑罰です。
凶器準備集合罪
対立する不良グループが、ケンカをするために凶器を用意して集合した場合、刑法に規定する凶器準備集合罪が成立する可能性があります。
凶器準備集合罪とは、危険な凶器を持って集まったときに成立する犯罪です。刑法第208条の2において、以下の通り規定されております。
刑法第208条の2
2人以上の者が他人の生命、身体又は財産に対し共同して害を加える目的で集合した場合において、凶器を準備して又はその準備があることを知って集合した者は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。
2 前項の場合において、凶器を準備して又はその準備があることを知って人を集合させた者は、3年以下の懲役に処する。
01.凶器とは
凶器準備集合罪にいう凶器とは、人の身体を殺傷する性質のあるすべての器具です。
拳銃や刀剣類はもちろんのこと、ナイフや角棒、メリケンサック、鉄パイプ、バール、金属バットなども含まれます。殺傷目的で加工されていたかどうかは問われません。
釘バットの場合、ただでさえ殺傷能力のあるバットに釘を仕込んで危険性を高めているので問題なく凶器となるでしょう。
02.集合とは
凶器準備集合罪にいう集合とは、2人以上の人が一定の時刻に一定の場所に集まることです。
03.共同加害目的について
凶器準備集合罪が成立するためには、共同して相手に害を加える目的が必要です。
つまり、2人以上の人が集合して相手の生命や身体、財産などに危害を加える目的を持っていることが必要となります。
不良グループがケンカのために釘バットを持って集まった場合は、「対立グループのメンバーを傷つけてやろう」という共同加害目的を持っているといえるのでこの要件も満たすといえます。
04.ケンカの事実は必要ない
凶器準備集合罪は集合したことをもって成立します。実際に相手とケンカしたという事実は必要ではありません。
05.凶器準備集合罪の刑罰
凶器準備集合罪の罰則は、2年以下の懲役または30万円以下の罰金刑です。
凶器準備結集罪
人が凶器を準備していることを知りながら集合させた場合の、凶器準備結集罪という犯罪が成立します。たとえば釘バットを持たせてメンバーを集めた不良グループのリーダーには凶器準備結集罪が適用される可能性があります。
凶器準備結集罪の刑罰は3年以下の懲役刑です。
暴行罪、傷害罪
実際にケンカははしなくとも凶器を持って集まっただけで凶器準備集合罪は成立します。それでは、実際に喧嘩をしてしまったらどうなるのでしょうか?
実際に相手とケンカをした場合には、暴行罪が成立します。また、相手をケガさせてしまえば傷害罪が成立します。
暴行罪の刑罰は2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料です。傷害罪の刑罰は15年以下の懲役または50万円以下の罰金刑となります。
凶器準備集合罪で検挙されたケース
2021年11月19日、対立する立川市と調布市の不良グループが釘バットやスタンガン、包丁、鉄パイプなどを準備して武蔵村山市の公園に集まりました。立川市のグループのメンバーは、調布市のメンバーに暴行を加え重軽傷を負わせました。
この件では、立川市及び調布市の2つのグループのメンバー(当時13歳から21歳まで)合計23人が、凶器準備集合容疑等で逮捕・書類送検されています。
まとめ
軽犯罪法(凶器携帯の罪)や凶器準備集合罪などで検挙されたら、すぐに弁護士までご相談ください。早期に対応することにより、不起訴処分を獲得するなど不利益を小さくするための効果的な対応が可能となります。
東京・恵比寿に事務所を構える弁護士法人鈴木総合法律事務所では、刑事弁護に積極的に取り組んでいます。刑事事件について心配事を抱えている方はお早めにご相談ください。