いったんは婚約しても、さまざまな事情により解消せざるを得ないケースもあります。しかし婚約を解消すると、相手から「慰謝料請求」されてしまう可能性があり、要注意です。
婚約破棄したからといって当然に慰謝料が発生するわけではありません。万一請求を受けてしまったら、「慰謝料が発生する条件」を知った上で適切に対応を進めましょう。
今回は婚約破棄でどこからが違法となって慰謝料が発生するのか、婚約の成立条件や慰謝料の相場、婚約破棄したときの結納金や婚約指輪の処理方法など、弁護士が解説します。
- 1.そもそも婚約とは
- 2.婚約破棄の割合
- 3.婚約破棄で慰謝料が発生する条件
- 4.婚約破棄の正当事由とは
- 5.正当事由のない婚約破棄の例
- 6.相手からの破棄であっても慰謝料が発生するケース
- 7.婚約破棄の慰謝料相場
- 8.結納金について
- 9.婚約指輪について
- 10.男性側の責任で婚約破棄した場合の対応まとめ
- 11.女性側の責任で婚約破棄した場合の対応まとめ
- 12.婚約破棄で慰謝料請求されたときの対処方法
- 12-1.婚約が成立しているか検討する
- 12-2.破棄の正当事由がないか検討する
- 12-3.慰謝料が発生していないならはっきり断る
- 12-4.慰謝料が発生しているなら減額交渉をする
- 12-5.合意書を作成する
- 13.婚約破棄で慰謝料請求されたら弁護士へご相談ください
1.そもそも婚約とは

婚約破棄で慰謝料が発生するには「婚約」が成立している必要があります。まずは法律上「婚約」とはどういった状態なのか、理解しておきましょう。
婚約とは「将来の婚姻の予約」です。わかりやすくいうと「将来結婚をする約束」であり、一種の契約です。契約がいったん成立すると、一方的な破棄はできません。
婚約はお互いの意思の合致によって成立するので、「契約書」にする必要はなく、いわゆる「口約束」でも成立します。ただし単に「結婚しよう」とひと言交わしただけでは「婚約が成立した」とは評価されにくくなっています。
1-1.婚約が成立する条件
婚約が成立したといえるためには、以下のような客観的外形的な事情が必要です。
- 結婚式の予約をしていた
- 婚約指輪の受け渡しをした
- 結納の儀式を行った
- お互いの親へ婚約者として紹介した
- 将来の結婚を前提に性関係を持ち同居していた
1-2.婚約が成立しないケース
以下のような場合には「婚約」が認められません。
- 単に恋人同士として同棲していた
- 親や友人には結婚することを話していない
- 婚約指輪、結婚式、結納、新婚旅行など結婚に関する具体的な行動をしていない
婚約が成立していないなら、「婚約破棄」による慰謝料を支払う必要はありません。
2.婚約破棄の割合

いったん婚約しても、破棄される割合はどのくらいあるのでしょうか?
婚約や婚約破棄については、公的機関へ報告したり調査したりする制度がないので、正確な割合は分かりません。
関連するデータとして「結婚後の破談」である「離婚」に関していうと、令和元年の婚姻件数が583,000件、離婚件数が210,000件でした(概算)。離婚率は約36%となります。
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/suikei19/dl/2019gaiyou.pdf
イコールではありませんが結婚前の破談である「婚約破棄」についても、近い数字になるとも考えられます。
近年では昔と異なり「離婚」や「婚約破棄」に対する抵抗感がなくなっているので、婚約破棄の件数は増加傾向をたどる可能性があるでしょう。
3.婚約破棄で慰謝料が発生する条件

婚約破棄しても、必ずしも慰謝料が発生するわけではありません。そもそも婚約が成立していなければ慰謝料を払う必要はありません。
また婚約が成立していても、破棄に「正当理由」があれば違法行為にはならず、やはり慰謝料は発生しません。
つまり婚約破棄で慰謝料が発生するには、以下の2つの条件を満たす必要があります。
- 婚約が成立している
- 正当事由なしに破棄した
以下で「婚約破棄の正当事由」とはなにか、みていきましょう。
4.婚約破棄の正当事由とは

婚約破棄の正当事由とは「婚約を破談にしてもやむを得ない事情」です。たとえば以下のようなケースで正当事由が認められます。
- 相手から暴力を振るわれた
相手から暴力を受けた場合には婚約を破棄しても慰謝料を支払う必要がありません。むしろ相手に慰謝料請求できる可能性があります。
- 相手が不貞をした
相手が別の異性と性関係を持ち「不貞」をはたらいた場合にも婚約破棄の正当事由が認められます。慰謝料を払う必要はなく、むしろ相手に慰謝料請求可能です。
- 相手から侮辱された
相手から自分や自分の実家を侮辱されたり異常な束縛を受けたりして「モラハラ被害」を受けた場合にも、婚約破棄の正当事由が認められます。
- 相手が著しく非常識な言動を行った
結婚式の準備中やデート中などに相手が著しく社会常識を逸脱する行動をとると、婚約破棄もやむをえない正当事由が認められやすくなります。
- 相手の収入が激減した、収入がなくなった

相手に著しい減収があると、婚姻後の生活に不安が生じるので婚約破棄の正当事由が認められます。
- 相手が重大な病気になった、障害者となった
相手が病気やけがによって身体障害者や精神障害者となった場合、人生の伴侶とすべきかどうかについて再検討する必要性があり、婚約破棄に正当な理由が認められます。
- 相手が行方不明になった
相手が行方不明になった場合、結婚は不可能になるので破棄が認められます。
- 相手が性的な無能者である事実が発覚した
相手が性的な無能者であるとわかったら、子どもを作れない可能性が高くなるため婚約破棄が認められます。
婚約破棄によって相手から慰謝料請求されたとき、上記に当てはまるなら支払いに応じる必要はありません。
5.正当事由のない婚約破棄の例

- 性格が合わないと感じた
- 家柄が合わない
- 両親に反対された
- 他に好きな人ができた
- 相手と思想や宗教が合わない
- やっぱりもう少し独身でいたいので、結婚したくなくなった
これらの理由で婚約を破棄した場合、慰謝料を払わねばならない可能性があります。
6.相手からの破棄であっても慰謝料が発生するケース

相手から婚約を破棄された場合でも慰謝料を払わねばならないケースがあります。
- 相手に暴力を振るった
こちらが相手に暴力を振るったために相手が婚約破棄した場合、慰謝料を払わねばならない可能性があります。
- 相手にモラハラ行為を行った
こちらが相手を侮辱したり差別したりしてモラハラ行為を行ったら、慰謝料請求される可能性があります。
- 別の異性と不貞した
こちらが別の異性と性関係を持ったために相手が婚約破棄した場合、慰謝料を払わねばなりません。
上記の事情があると、相手から婚約破棄されたうえに慰謝料も請求される可能性があるので、注意して下さい。
7.婚約破棄の慰謝料相場

婚約破棄によって慰謝料が発生する場合でも、必ずしも相手の請求通りの金額を支払う必要はありません。相手の請求額が相場を超える場合、少なくとも相場までは減額が可能です。
では婚約破棄の慰謝料はどのくらいになるのでしょうか?
裁判例ではおおむね「50~200万円程度」とされるケースが多数です。具体的な状況に応じて金額が算定されます。
7-1.婚約破棄で慰謝料が高額になる条件
以下のような事情があると、婚約破棄の慰謝料は高額になる傾向があります。
- 婚約期間、交際期間が長い
- 破棄された側の年齢が高い
- 結婚の準備が相当進んでいた
- 破棄された側が婚約を機に退職した
- 妊娠、中絶、出産した
- 婚約破棄によって精神状態が悪化した
- 何度も性関係を持っていた
- 破棄した側の社会的地位や資産が高い
7-2.婚約破棄で慰謝料が低額になる場合
- 被害者側にも問題があった
- 婚約期間、交際期間が短い
- 仕事を辞めていない、精神状態も悪化していないなど破棄による影響が小さい
- 一応婚約が成立しているけれども準備もあまり進んでおらず、周囲にも広くは知られていなかった
慰謝料請求されたときには、上記のような事情を評価して、適正な金額を定める必要があります。
8.結納金について

婚約破棄すると、既に受け渡しをしている「結納金」をどのように処理すればよいのでしょうか?
結納金は結婚することを条件として贈与するお金です。婚約破棄すると、前提となる条件が失われるので贈与の効力もなくなり、返還しなければならないのが原則です。
ただし一方に婚約破棄の責任がある場合、取扱いが異なってきます。
自ら婚約を破談にしておきながら、結納金の返還のみを求めるのは不当と考えられるので破棄原因を作った側は「信義則」により相手に結納金の返金請求ができません(大阪地裁昭和41年1月18日など)。
男性側が正当事由なしに婚約破棄した場合には、相手に結納金の返金を請求できないと考えましょう。
反対に、女性側の責任で婚約破棄となった場合には当然結納金の返金請求が可能です。
9.婚約指輪について

婚約する際には「婚約指輪」の受け渡しも行うものです。婚約破棄すると婚約指輪をどのように取り扱うのでしょうか?
婚約指輪も結納金と同様に「結婚することを条件として贈与する物」です。結婚という前提条件が失われたら贈与の効果がなくなるので、返還するのが原則です。
ただし、やはり一方に破棄の原因がある場合には取扱いが異なります。自ら婚約を破談にさせておきながら婚約指輪の返還のみを行うのは不当だからです。
男性側が正当事由なしに婚約破棄した場合、信義則上相手に婚約指輪の返還を求められません。
また、婚約指輪の返還請求ができるケースでも、基本的に請求できるのは「指輪そのものの返還」です。「指輪購入代金」を返してもらえるわけではありません。ただ贈与した指輪が返ってきても、男性にとっては使い途がないケースが多いでしょう。
その場合、相手女性と話し合い、お金で返してもらって解決してもかまいません。
10.男性側の責任で婚約破棄した場合の対応まとめ

- 男性は女性に慰謝料を払わねばならない
- 男性は女性に結納金の返金請求ができない
- 男性は女性に婚約指輪の返還請求ができない
11.女性側の責任で婚約破棄した場合の対応まとめ

- 女性は男性に慰謝料を払わねばならない
- 女性は男性に結納金を返さねばならない
- 女性は男性に婚約指輪を返さねばならない(ただし話し合いによって女性側が時価で買い取ることは可能)
12.婚約破棄で慰謝料請求されたときの対処方法

婚約破棄を理由に慰謝料請求されたら、以下のように対処しましょう。
12-1.婚約が成立しているか検討する
まずは婚約が成立しているといえるのか、検討しましょう。結婚に向けた具体的な行動をとっておらず「婚約が成立していない」なら慰謝料を拒絶できます。
12-2.破棄の正当事由がないか検討する
婚約が成立している場合、婚約破棄に正当事由がないか確認しましょう。正当事由があれば、慰謝料を払う必要はありません。相手の責任で破談になった場合、相手に慰謝料請求できる可能性もあります。
12-3.慰謝料が発生していないならはっきり断る
慰謝料が発生していないなら、はっきりと相手に「慰謝料支払い義務がないので請求には応じられません」と通知しましょう。
12-4.慰謝料が発生しているなら減額交渉をする
正当事由なしに婚約を破棄して慰謝料を払わねばならない状況なら、相場の金額になっているかどうか検討しましょう。減額の余地があれば交渉によって減額すべきです。
12-5.合意書を作成する
話し合って合意ができたら、慰謝料支払に関する合意書を作成します。正当事由があり支払に応じる必要がない場合でも「慰謝料支払義務がない」と確認する合意書を作成しておいた方が安心です。
慰謝料が発生するケースでは、合意書作成後速やかに支払いをしましょう。
13.婚約破棄で慰謝料請求されたら弁護士へご相談ください

婚約破棄で慰謝料請求を受けたら、そもそも支払義務があるのか、義務があるとしても減額できないか検討が必要です。
当事務所では男女トラブルの解決に積極的に取り組んでいますので、慰謝料請求を受けてお困りの際には、お気軽にご相談ください。