お酒を飲んで酔っ払ってしまい、しらふの状態では行わないような犯罪行為をしてしまう方は少なくありません。暴行や傷害、ときには強制わいせつに及んでしまうことも。
刑事事件を起こしてしまった場合、早急に適切な対応を取らないとどんどん状況が悪化してしまうので注意が必要です。
今回の記事では、酔っ払って刑事事件を起こしてしまった場合の対処方法について弁護士が解説します。
酔っ払った際に起こしやすい犯罪の種類と量刑
酔っ払ってしまうと、気が大きくなったり、物事を冷静に判断できなくなりされる方がいらっしゃいます。酩酊により理性的な判断ができなくなった結果、暴行や傷害、強制わいせつといった犯罪行為をしてしまうことも・・・。
まずは、酔っ払った状態(酩酊状態)で起こしやすい犯罪の種類を見てみましょう。
01.暴行罪
暴行罪は、相手に対して不法な有形力を行使したときに成立する犯罪です。不法な有形力の典型としては、暴力が挙げられます。
たとえば以下のような行為を行なった場合、暴行罪が成立します。
- 相手を殴った、蹴った
- 相手の髪の毛を引っ張った
- 相手の胸ぐらを掴んだ
- 相手を小突いた、転倒させた
- 大声で怒鳴りつけた
- 酒や水を浴びせた
暴行罪の刑罰は、2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料です(刑法208条)。
なお、暴行により相手が怪我をした場合は、暴行罪ではなく傷害罪が成立するので、暴行罪は適用されません。
02.傷害罪
傷害罪は、相手の生理的機能に障害を与えたときに成立する犯罪です。暴力を加えることで相手をケガをさせた場合、生理的機能を害したといえるので、傷害罪が成立します。
「生理的機能を害した」かどうかは、被害者側に下記の症状が出ているかどうかにより判断されます。
- 捻挫
- 打撲
- 切り傷
- 骨折
- 頭痛
- 耳鳴り
- めまい
- 嘔吐
- PTSD
- うつ病
- 睡眠障害
症状については、被害者の身体上で視認することができる怪我だけではなく、PTSDやうつ病などの精神症状も含まれます。
傷害罪の刑罰は、15年以下の懲役または50万円以下の罰金刑です(刑法204条)。
03.強制わいせつ
強制わいせつは、暴行や脅迫を手段として相手にわいせつな行為を行ったときに成立する犯罪です。
相手方の同意がないままに以下のような行為をすると、強制わいせつ罪が成立する可能性があります。
- 相手に抱きつく
- 相手を押し倒す
- 無理やりキスをする
- 胸やお尻を触る
- 服を脱がせる
強制わいせつ罪の刑罰は、6ヶ月以上10年以下の懲役刑です(刑法176条)。
なお、相手が13歳未満の場合は、相手が同意していたとしても(暴行や強迫を手段とせずに行為に及んだとしても)強制わいせつ罪が成立します。
酩酊状態で刑事事件を犯したら罪にならないの?
酔っ払ったうえで暴行やわいせつ行為などをした場合、「酔っていたため、まったく覚えていない。前後不覚状態にあったので犯罪が成立しないのではないか?」と考える方がいらっしゃいます。
はたして、酔っ払っていたら刑罰を免除される可能性はあるのでしょうか?
01.処罰するには責任能力が必要
刑法では、責任能力がないと処罰されません。
責任能力とは、やって良いことと悪いことを判断するだけの十分な能力や、自分の行動を制御できるだけの能力です。
責任能力のない状態を心神喪失(しんしんそうしつ)、責任能力が極めて低下している状態を心神耗弱(しんしんこうじゃく)といいます。心神喪失の状態で行った行為については処罰されません。また、心神耗弱の状態で行った行為については刑罰が減軽されます。
02.酔っ払っていただけでは責任能力に影響しない
それでは、酔っ払った状態は、心神喪失または心神耗弱に該当するのでしょうか?答えはNo.です。単に酔っ払っていただけでは、刑事的な責任能力に影響しません。
単純に酔っ払っている状態を単純酩酊といいます。
単純酩酊であれば責任能力があると判断されるので、暴行罪や傷害罪、強制わいせつ罪などは成立し処罰されます。
酔っ払って心神喪失や心神耗弱が認められるのは、以下のようなケースに限られます。
病的酩酊(心神喪失が認められやすい)
以下のような症状が発生している場合、病的酩酊とされ、心神喪失と判断される可能性があります。
- 意識障害が発生している
- 幻覚や妄想の症状がある
- 周囲の状況をまったく認知できない
- 不可解な言動を繰り返す
複雑酩酊(心神耗弱が認められやすい)
以下のような症状が発生している場合、複雑酩酊とされ、心神耗弱と判断される可能性があります。
- 著しい興奮状態が長く続いて、一時的に沈静化してもすぐに興奮が強まって安定しない
- 記憶がほとんどない
- 自殺を試みる
病的酩酊と複雑酩酊の二つを合わせて異常酩酊と呼ばれています。厚生労働省の提供するサイトのリンクを添付しますのでこちらもご確認ください。
酔っ払って記憶がない場合も故意がある?
犯罪が成立するためには、故意が必要です。
故意とは、自分の行為(犯罪行為)を認識し、その実現を意図又は認容していることです。平たく言えば、自分の行為が悪いことだと理解しながらも、その行為をするもしくは行為の結果が発生してもいいやと考えているということです。
他方で、多量の酒を飲んで酔っ払うと意識や記憶を失うことがあります。犯罪行為時の意識や記憶がなかったとしても、故意が認められて処罰されるのでしょうか?
行為時に故意があれば処罰対象となります。酩酊状態であっても、そのときは「殴ってやろう」「キスをしたい」などと考えて(認識して)行動しているはずですから、故意は認められます。そのため、酔っ払ったうえでの犯罪行為であっても故意は認められ処罰対象となります。
なお、断片的に記憶があって犯罪行為をした事実が明らかであるのに「酔っぱらっていたので覚えていない」「そんなことはやっていない」と弁明するのは得策ではありません。反省がないと捉えられて、処分を重くされる可能性があります。
状況によっては刑罰が重くなることも
お酒に弱い体質の方や、酒に酔うと暴れたり無茶な行動をしたりする傾向のある方が多量に飲酒するのはおすすめできません。
こういった傾向があるにもかかわらず多量に飲酒すること自体が、犯罪行為をしてもかまわないという認識を有していたという根拠とされてしまうのです。
酔ったら暴れるかも知れないけれどまあいいかと認識して自ら酒を飲んで酔っぱらい、その結果犯罪行為を犯したのであれば悪質と評価されてもおかしくないからです。
また、以前にも飲酒で暴行やわいせつ行為によって逮捕、処罰された経験のある方も要注意です。同じ過ちを繰り返しているわけですから「反省がない」と捉えられる可能性が高くなります。
飲酒の際には、適量を意識することが大切です。
酔っ払ったときの犯罪で逮捕されるタイミングはいつ?
酔っ払って暴行や傷害、強制わいせつなどの犯罪をしてしまった場合、どのタイミングで逮捕されるのでしょうか?
01.現行犯逮捕
酔った勢いでの暴行罪や傷害罪、強制わいせつ罪は、その場で取り押さえられる現行犯逮捕がほとんどです。
現行犯逮捕は、私人(一般人)でもできますので、行為の時点で周りに人がいる場合は取り押さえられられるでしょう。周囲の人に取り押さえられなくても、呼ばれてやってきた警察官に現行犯逮捕されます。
現行犯逮捕後、警察に引き渡され、留置場で身柄拘束されることとなります。
02.後日逮捕(通常逮捕)
現行犯逮捕されなかったとしても、後日、自宅などへ警察がやってきて逮捕されることになります。この方法を通常逮捕といいます。
被害者による被害届や刑事告訴をきっかけに捜査機関(警察)が捜査を進めます。被疑者や容疑が固まった時点で、逮捕状をとって被疑者宅に逮捕に訪れます。
事件を起こしてから数ヶ月が経過後に通常逮捕されるケースも多々あります。その場で逮捕されなかったからといって、「酔っ払った際の暴行やわいせつ行為はバレなかった」と安心すべきではありません。
逮捕された後の流れ
暴行や傷害、わいせつ行為などをして逮捕されたら、その後はどのような流れで刑事手続が進むのでしょうか?
01.48時間以内に検察官へ送致される
逮捕されると警察で取り調べを受けて、48時間以内に検察官のもとへ送られます。
02.24時間以内に勾留されるかどうか決まる
検察官へ送られると、24時間以内に勾留されるかどうかが決まります。勾留決定が出た場合は引き続き警察の留置場で身柄拘束されます。
なお、勾留決定が出なかった場合は釈放されます。酔っ払って暴行を振るったり喧嘩になったりした場合、勾留されずに釈放されるケースも多いです。
03.20日間勾留される
勾留された場合、身柄拘束の期間は最長で20日間です。勾留中に、現場の実況見分に立ち会わされたり警察官による取り調べを受けたりします。
警察官からの聞き取りで不利なことをしゃべってしまうと処分決定の際に不利益に評価されてしまいます。取り調べの中で警察官が悪質なストーリーを作って押し付けてくるケースもあります。「そのとおりです」などと答えてしまわないように注意してください。また、被害者側が、大げさに説明したり不正確な内容を捜査官に伝えている可能性もあります。捜査官の説明や誘導を鵜呑みにするのも危険です。
04.起訴か不起訴か決定される
勾留期間が満期になると、検察官は起訴するか不起訴にするかを決定します。
勾留されずに在宅捜査となっていた場合でも、捜査が完了すると被疑者は検察庁に呼ばれて調書をとられ、その後に処分決定が行われます。
処分の方法には大きく分けて下記の3種類があります。
不起訴
起訴されず、刑事事件が終了します。刑罰は与えられず前科もつきません。
略式起訴
書類上だけで起訴されて罰金や科料の刑罰が下されます。身柄は解放され裁判所に行く必要もありませんが、前科はつきます。
なお、略式起訴が行われるのは100万円以下の罰金刑や科料の刑罰が適用され、被疑者が納得している場合のみです。強制わいせつ罪には罰金や科料の刑罰がないので、略式起訴になる可能性はありません。
通常起訴(公判請求)
通常の刑事裁判が始まり、公開法廷で被告人として裁かれます。
通常起訴されると、被告人は月に1回程度の公判期日へ必ず出席しなければなりません。身柄拘束されていたら、留置場や拘置所から裁判所へ運ばれますが、在宅の場合には自分で裁判所へ行く必要があります。遅れないように余裕をもって出廷しましょう。
審理が終わったら判決が言い渡され、有罪か無罪か、有罪の場合には刑罰の内容が決まります。
酔っ払ったときの犯罪で逮捕されたときの対処方法
01.虚偽の自白や不利な説明をしない
犯罪行為を犯して逮捕されると、捜査官から厳しい取り調べを受けますが、その際、虚偽の自白や自分に過剰に不利になる供述をしてはなりません。起訴されやすくなったり刑罰が重くなったりして不利益を受ける可能性が高まります。
同じ内容でも表現方法により、悪質ととらえられる可能性があります。
捜査官が理詰めで責めてくると納得できなくても「はい」と答えてしまう方もいますが、そういった対応は避けてください。
困ったときには黙秘して、早めに弁護士を呼び対処方法を相談しましょう。
02.勤務先への対応
会社員の方が勾留された場合は、勤務先への説明が必要です。
多くの企業では長期間無断欠勤が続くと懲戒解雇すると定めております。勾留期間中は外部への連絡ができないため、音信不通のままだと解雇の危険性が高くなります。
家族や親族が「風邪です」「身内に不幸があって」などとごまかしていても、欠勤日数が20日にも及ぶようであればごまかしきれなくなります。
早めに刑事弁護人に対応を依頼して、解雇を避けるための対応をとるべきです。
03.被害者との示談を進める
逮捕されたときに極めて重要なことは、被害者との示談です。示談が成立すると、被疑者や被告人によって非常に良い情状になり、処分が軽くなります。
たとえば検察官による処分決定前に示談を成立させて示談金を支払ったら、不起訴になる可能性が大きく高まります。不起訴になれば釈放されるので、会社にも復帰しやすくなるでしょう。
被害者との示談交渉を進めるには、刑事弁護人によるサポートが必須です。弁護士からの連絡であれば、被害者側も安心して受け入れやすいですし、示談条件も適正なものとなり、示談が成立したら、速やかに検察官に不起訴の申し入れもできます。
また、現行犯逮捕されていない場合であっても、通常逮捕を避けるためにできるだけ早めに被害者と示談をしましょう。
示談を成立させて賠償金を払えば、被害者は被害届や告訴状を提出しません。すでに提出していても、取り下げる約束をしてもらえます。警察の方も「民事的に解決できたのであれば、あえて逮捕する必要がない」と考えて逮捕しないのが一般的です。
自分で示談交渉するのが難しい場合、弁護士を代理人として示談の申し入れをしましょう。
04.良い情状をアピールする
被害者との示談以外にも被疑者にとって良い情状となる要素はあります。
- 初犯である
- 普段は真面目に働いている
- 家族による監督を期待できる
- しっかり反省している
- 今後酒は飲まないと誓っている
できるだけ多くの事情を捜査官や検察官へアピールしましょう。
刑事弁護人がついていると、家族から身元引受書を書いてもらって提出したり意見書を差し入れたりできるので、効果的に良い事情の説明ができます。
05.早期に刑事弁護人をつける
刑事事件の被疑者となったとき、なにより助けになるのは刑事弁護人です。
- 逮捕を回避する方法のアドバイスを受けられる
- 被害者との示談を効果的に進められる
- 早期の身柄解放のための活動をしてもらえる
- 不起訴処分を獲得しやすくなる
- 刑罰が軽くするための活動をしてもらえる
- 無罪主張や立証をしてもらえる
逮捕されたらすぐに刑事弁護人を選任し、示談交渉等の弁護活動を始めてもらいましょう
東京・恵比寿に事務所を構える弁護士法人鈴木総合法律事務所では刑事弁護に積極的に取り組んでおり、これまで多くの暴行罪、傷害罪、強制わいせつ罪を解決してまいりました。もちろん酔っ払った勢いで起こしてしまった犯罪についての刑事弁護の解決実績も多数有しております。
酔っ払って犯罪を犯してしまった方は、ご本人さまでもご家族さまでもお気軽に当事務所までご相談ください。