近年、あおり運転(煽り運転)が社会問題となっております。あおり運転とは、前の車と車間距離を詰めたり幅寄せしたり追い立てたりといった危険な運転方法です。
あおり運転は交通事故を引き起こす可能性が高いです。また、あおり運転は一般の道路のみならず高速道路でも行われることもあり、2017年6月には、あおり運転の被害者が退避のために高速道路上に車を停車させていたところ、後続車に追突されて死亡する痛ましい事件も発生しました。
このあおり運転は、どのような犯罪に該当するのでしょうか?
今回の記事では、あおり運転とはどのような行為か、あおり運転により成立する犯罪、あおり運転の被害に遭った場合やあおり運転を行なってしまった場合にはどのように対処すればよいのか、等について弁護士が解説します。
あおり運転とは
あおり運転(煽り運転)とは、道路を走行する運転者が運転中に他の運転者を煽ることによって道路における交通の危険を生じさせ、通行をみだりに妨害する行為の総称のことです。
他の車にプレッシャーをかけたり、他者の運転を妨害・制限したりするあおり運転は、交通事故を発生させる危険性が非常に高いものと言えます。近年では、あおり運転に対する警察による取り締まりが強化され、厳罰化も進められています。
なお、道路交通法においては「妨害運転」と表記されます。
あおり運転に該当する運転
以下のような運転は、あおり運転にあたるものとされています。
- 不必要に車間距離を詰める
- 異常なスピードで追い立てる
- 幅寄せをする
- 前方に出て急ブレーキをかける
- クラクションを鳴らす
- 不必要なバッシングをする
01.不必要に車間距離を詰める
前の車両との車間距離を不必要に詰める態様の運転は、前方車両に過度にプレッシャーを与えることになりますのであおり運転に相当します。
02.異常なスピードで追い立てる
異常なスピードで追い立てるような運転も、追い立てられた側が焦って運転ミスをしてしまう可能性が高いため、あおり運転に相当します。
03.幅寄せをする
横の車に対し幅寄せをすることでプレッシャーを与える、ハンドリングを制限するような運転もあおり運転に相当します。
04.前方に出て急ブレーキをかける
他の車両の前に出て急ブレーキをかけるといった進路妨害行為もあおり運転です。このような運転は、後方車両の通常の走行を妨害することとなり交通事故を引き起こしてしまう可能性が非常に高いためです。
05.クラクションを鳴らす
クラクションを鳴らし続けることで他の車両にプレッシャーを与えるような運転もあおり運転に相当します。
06.不必要なパッシングをする
パッシング(ライトを素早く点滅させる行為)等で他の車両を威嚇する行為もあおり運転の一種にあたります。
あおり運転で成立する犯罪
あおり運転を行なうとどのような犯罪が成立するのでしょうか?
実は現行法ではあおり運転について直接定めた刑罰はありません。「あおり運転罪」なる犯罪は存在しないということです(今後制定される可能性はありますが…)。
そのため、あおり運転に対しては現行法で定められる刑罰を適用することで処罰することとなります。
01.暴行罪(刑法208条)
現行法にはあおり運転を直接罰する規定がないため、過去にあおり運転による死亡者が出た際に「悪質なあおり運転を規制できないのではないか?」と問題視されたことがありました。
この不都合を回避するため、刑法上の暴行罪による取り締まりが進められています。
暴行罪は不法な有形力の行使をしたときに成立する犯罪です。人を殴ったり蹴ったり胸ぐらをつかんだりする行為は不法の有形力の行使とされますが、あおり運転で他車両にプレッシャーをかける行為も不法の有形力の行使に当たるものとしたのです。
実際、前方車両との車間距離を詰めたり蛇行運転したりしてあおり運転をした加害者が、暴行罪の嫌疑で逮捕された事例なども多々あります。
暴行罪の刑罰は、2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料です。
02.車間距離保持義務違反
道路交通法においては、車間距離保持義務が規定されています。前方車両との間に適切な車間距離を保持しなければならないという運転者の義務です。
車間距離を詰めるタイプのあおり運転を行なった場合は、適切な車間距離を保持できないので車間距離保持義務違反となります。
車間距離保持義務違反は行われた場所によって刑罰の内容が変わります。高速道路上での義務違反の場合は3ヶ月以下の懲役刑または5万円以下の罰金刑、それ以外の場所では5万円以下の罰金刑が適用されます。
03.進路変更禁止違反
道路交通法では安全な方法で進路変更しなければならないと規定されています。
横の車に無理な幅寄せ行為を行なうタイプのあおり運転の場合は、進路変更禁止違反となる可能性があります。罰則は5万円以下の罰金刑です。
04.追い越し禁止違反
左車線から追い越しをしたり、追い越し禁止場所で無理に追い越したりすると、追い越し禁止違反となって3ヶ月以下の懲役または5万円以下の罰金刑が適用される可能性があります。
05.急ブレーキ禁止違反
急ブレーキをかけて他の車にプレッシャーをかけると、急ブレーキ禁止違反となって3ヶ月以下の懲役または5万円以下の罰金刑となる可能性があります。
06.クラクションやパッシングの濫用
やみくもにクラクションを鳴らしたりパッシングによって威嚇したりすると、警音器使用制限違反や減光等義務違反に該当します。この場合、5万円以下の罰金刑が適用される可能性があります。
07.危険運転致死傷罪
危険なあおり運転によって交通事故を引き起こし、被害者を死傷させてしまった場合は危険運転致死傷罪が成立する可能性があります。
被害者がけがをした場合には危険運転致傷罪、被害者が死亡したら危険運転致死罪が成立します。危険運転致傷罪の刑罰は15年以下の懲役刑、危険運転致死罪の刑罰は1年以上の有期懲役刑です。
道路交通法違反や暴行罪などが一緒に成立した場合、刑罰は1.5倍となりますので、危険運転致傷罪の場合に22.5年、危険運転致死罪の場合に30年もの長期にわたる有期懲役刑が適用される可能性もあります。
実際、2017年に高速道路上であおり運転行為を行って被害者を死亡させた男性は、危険運転致死罪によって処罰され、懲役18年の判決を受けています。
あおり運転の被害を受けてしまったら
あおり運転の被害を受けたら、車をすぐに安全なところに停止させ警察を呼びましょう。なお、加害車両から人が出てきたとしてもドアや窓を開けたりしないようにしてください。相手方は興奮していることがほとんどなので、暴行や障害の被害を受ける可能性が非常に高いです。
また、可能であればスマホやドライブレコーダー等であおり運転行為や加害相手を記録するようにしましょう。これらがあればあとで証拠とすることができます。なお、スマホで相手を撮影することあまり推奨できません。撮影されていることに気づくと興奮してしまう加害者も多いためです。
実際に被害に遭った際は気が動転してしまうかもしれませんが、自身の安全を最優先に行動するよう心掛けてください。
あおり運転をしてしまったら
01.あおり運転をしない
- 他車の運転が気に食わない
- 急いでいるのに前の車のスピードが遅い
- 前の車の運転が下手
- 他車に強引な割り込みをされた
上記のような理由であおり運転をしてしまう方は少なからずいらっしゃいます。
しかし、先にも述べた通り、昨今ではあおり運転への処罰が強化されております。ちょっとくらいなら煽ってもいいかなどと軽く考えてはいけません。特に交通事故を起こしてしまった場合、危険運転の罪が適用されて極めて重く処罰される可能性も高くなっています。
あおり運転は、事情の如何を問わず犯罪です。絶対にしないようにしましょう。
02.すぐに弁護士を呼ぶ
あおり運転をしたことを理由に逮捕されてしまったらすぐに弁護士を呼びましょう。
「交通違反だから2日もあれば留置場を出られるだろう」などと甘く考えてしまうかもしれませんが、あおり運転の態様や悪質さによっては勾留され20日以上身柄拘束される可能性があります。起訴されて正式裁判になる可能性もあります。
身体拘束された場合に早期に身柄を解放してもらうには、弁護士が接見に行って具体的な事情を確かめ、検察官に悪質でないことなどを説得的に説明する必要があります。
また、煽り行為の疑いで検挙されたとしても、よくよく調べてみたら暴行罪も道路交通法違反も成立していないということもあります。法律に詳しい弁護士に状況を分析してもらうことも非常に重要といえます。
さいごに
東京・恵比寿にある鈴木総合法律事務所では、刑事事件のみならず交通事故の問題についても力を入れて取り組んでおります。
あおり運転で逮捕されてしまった、あおり運転の被害に遭った方でその後の対応にお困りの方は、是非一度当事務所までご相談ください。