裁判所を介して行なう債務整理である破産と個人再生の手続き。この2つの手続きでは得られる効果が大きく異なります。
破産は負債がゼロになる(負債を支払う責任を免れる)のに対し、個人再生は一定の割合に圧縮された負債を3年~5年で分割して支払うので、効果だけで考えると個人再生は破産よりもメリット(経済的利益)が少ないように思われます。
それでは個人再生にはどのようなメリットがあるのでしょうか?
今回の記事では、個人再生手続きがどのような手続きなのか、手続きはどのような流れで進むのか等について解説します。
破産と個人再生の比較
個人再生はどのような手続きでどのような効果が得られるのでしょうか?破産と個人再生を比較しながらそれぞれの手続きの特徴を見ていきましょう。
01.破産により得られる効果
破産手続により得られる効果は免責です。免責とは端的に言えば負債がゼロになる(負債を支払う責任を免れる)という効果です。
破産手続終結により免責を得ることができた場合、破産者は負債全額について支払う責任を免れるという効果を得ることとなります。負債がゼロになったのとほぼ一緒ですので得られる経済的利益は最高のものとなります。
02.個人再生により得られる効果
個人再生手続きでは、再生計画案に従い負債を一定の割合に圧縮することができるという効果を得ることができます。
個人再生手続きの終結により認可に至った場合、抱えていた負債が5分の1まで圧縮され(減縮される割合は負債総額や清算価値により変動します)、再生債務者は圧縮後の負債額を原則3年(最長5年)で分割して支払いますうこととなります。
すなわち負債の5分の4について支払う義務を免れたということになるので、破産と比べると見劣りする結果とはなります。
個人再生のメリット
手続終結による効果(手続き終結により得られる経済的利益)だけに着目すると、負債を無くすことができる破産のほうがメリットが大きいといえます。
しかし、個人再生には破産手続きにおいて課される以下のリスク・デメリットを回避することができるという特性があります。
破産 | 個人再生 | |
住宅ローンを組んで所有している持ち家 | 債権者(抵当権者)による抵当権の実行により換価される。 結果、持ち家の所有権を失うこととなり退去を余儀なくされる。 | 住宅ローン特則を利用すれば住宅を維持することが可能(住宅ローンそのものがなくなるわけではないので住宅ローンの支払は必要)。 |
資格制限 | 破産者である間は、保険外交員や士業についての資格制限に引っかかるため資格を利用して業務にあたることができない。 法人の取締役等に就任している場合、欠格事由に該当するので解任されることとなる。 | 一切の資格制限がない。 |
財産の換価 | 自由財産の範囲を超える財産を有する場合、換価処分の対象となる。 換価処分の対象となった財産を保持し続けることはできない。 | 財産の換価処分は行われない(清算価値に計上される)。 |
免責不許可事由 | ギャンブル等を理由に負債を形成している場合、免責不許可事由に該当するため原則は免責不許可となる(裁量免責によって免責を得ることは可能)。 | 免責不許可事由という概念がなく、原則として負債形成理由が認可決定に影響を与えることはない。 |
上記のメリットがあることから、以下のような方は個人再生に臨むことにメリットがあるといえます。
- 今住んでいる持ち家を失いたくない方
- 資格制限に該当するため破産することができない方
- 換価処分したくない財産(父の形見の自動車など)を有している方
個人再生の流れについて
弁護士に依頼して個人再生の申立を行なう場合の流れについてみてみましょう。
下記のモデルケースでは、都内に住む依頼者が弁護士事務所に個人再生申立(小規模個人再生申立)を依頼し、東京地方裁判所に申立てを行なうというケースを想定しております。弁護士事務所や申立裁判所によっては運用が異なることがあることをあらかじめご承知おきください。
01.弁護士への依頼・相談
抱えている負債をどのくらいまで減額できるかは、下記2点が判明しないと確定することができません。
- 負債総額
- 所有する財産の評価額(清算価値)
個人再生によってどれだけ借金を圧縮できるのかは専門家である弁護士でないと難しいといえるでしょう。また、負債の状況や所有財産、生活事情等によっては個人再生が最良の選択肢ではないかもしれません。
個人再生はあくまで債務の問題を解決するための手段にすぎません。目的(ゴール)は債務を整理して自身の生活を再建することです。自分に最適な方法を確認するためにも弁護士に相談しましょう。
司法書士に依頼するのは止めた方が良い理由
個人再生の申立を司法書士に依頼することも可能ですが、弁護士に依頼する場合と比較してデメリットがあります。
司法書士では個人再生申立(04)以降の手続きをサポートすることができません。また、手続きの過程において作成する必要のある再生計画案(09)の作成も行なうことができません。この再生計画案の作成は何らの知識のない一般の方では困難です。
また、裁判所によっては個人再生委員報酬が高くついてしまうことがあります。
この点、弁護士に依頼する分には、上記のデメリットを全て回避することが可能です。個人再生を検討されている方は弁護士に相談することをお勧めします。
02.受任通知の発送
手続きを受任した弁護士は各債権者に対し受任通知を発送します。受任通知とは弁護士が依頼者の代理人になったことを伝えるための通知書です。
債権者は受任通知を受け取ると、以後、債務者(依頼者のことです)に対し直接の取立や督促をすることをしなくなります(できなくなります)。すなわち弁護士が介入すれば債権者からのしつこい督促を止めることができるということです。
借金の督促等で精神的に追い詰められている方は早めに弁護士に依頼することをお勧めします。
03.必要書類の準備
個人再生は裁判所を介した法的手続きです。申立に際し提出する申立書の書式や添付書類は明確に定められています。
特に添付書類については自身で準備する必要となります。弁護士の指示に従い速やかに収集しましょう。
なお、申立に添付する書類としては、以下のものがあります。
- 住民票
- 月単位での収入証明(給与明細等)
- 年単位での収入証明(源泉徴収票、課税証明書等)
- 保有口座すべての取引履歴(過去2年分)
- 保険証券、解約返戻金計算書(保険に加入している場合)
- 車検証、査定書(自動車を所有している場合)
- 不動産の登記簿謄本、査定書(不動産を所有している場合)
- 住宅ローン契約書(住宅ローン特則を利用する場合)
上記の書類を準備しないことには個人再生の申立を行なうことはできません。弁護士の指示に従って書類をしっかりと収集しましょう。
04.裁判所への申し立て
申立書の作成が完了したら、弁護士が裁判所に個人再生手続きの申立を行ないます。申立先は、依頼者の住所地を管轄する地方裁判所が原則です。
05.個人再生委員との打ち合わせ
東京地方裁判所の場合、申立書が受理されると個人再生委員が選任されます。
個人再生委員とは裁判所から指名された弁護士で、裁判所に代わって個人再生手続きの指導・監督をします。
申立人は、申立後速やかに個人再生委員と面談を行なう必要があります。なお、面談には代理人弁護士も同行します。
06.履行テストの開始
個人再生委員選任後、履行テスト(積立トレーニング)が始まります。これは再生計画に沿った返済ができるかどうかを見極めるためのものです。
申立人は以後再生手続きが終了するまでの約6ヶ月間、再生計画で支払う予定の金額を個人再生委員の口座に毎月入金します。
履行テストで要求されている支払ができない、これを支払ったがために家計が破綻する、ということであれば、その再生計画は現実的なものではないということになりますので再生手続きの目標である認可を得ることができないのでご注意ください。
07.個人再生手続きの開始
個人再生委員との面談後、特に問題が無ければ個人再生委員は「手続きを始めていいですよ」という意見書を裁判所に出し、意見書を受け取った裁判所は開始決定を出します。
開始決定はその名のとおり「これから個人再生手続きを始めますよ」という決定です。
また、裁判所は、債権者に対し開始決定通知と債権者一覧表を送付します。この債権者一覧表は申立書に添付されているものと同じものです。
開始決定等を受け取った債権者は、債権者一覧表に記載されている金額と債権者側で把握している負債額との間に齟齬がないかを確認したうえで債権届出を行います。なお、債権者は、債権届け出の際、開始決定日の前日までの利息及び遅延損害金を計上することができることとされています。
債権者から届出がなされた債権額について、代理人弁護士はその債権額が適切かどうかをチェックします。適切であればその金額で債権額が確定することとなります。おかしい場合は争うこととなります。
08.再生計画案の作成
各債権者の確定債権額に基づき、弁護士は再生計画案を作成し裁判所に提出します。
再生計画案とは、個人再生手続きにより借金をいくらまで減額するか、減額した債権をどのように返していくのか(支払回数、支払額)をまとめた計画書です。
この計画書は法令の要件を満たしていることが重要となります。専門的な知識が必要となりますので、弁護士に作成を依頼する必要があるでしょう。
09.書面決議
裁判所から債権者に対し再生計画案が送付され、「書面決議」に付されることとなります。
書面決議は、債権者に多数決を取る手続きとお考え下さい。債権者に対し「再生計画によって負債を圧縮するつもりだけど賛成しますか反対しますか」という判断を仰ぐわけです。
- 債権者数ベースで過半数の債権者が同意しない
- 債権額ベースで過半数の債権者が同意しない
書面決議の結果、上記の条件のいずれかを満たしてしまった場合には、反対意見多数として認可を得ることができません。過半数の同意が得らなかったとして手続きは終結となり再生計画による負債の圧縮を実現することができません。
この「過半数の反対により手続きが失敗してしまうリスク」のことは、反対リスクと呼ばれております。申立前に反対リスクの起こりうる可能性についてはしっかりと弁護士に確認しておきましょう。
給与所得者等再生の場合は反対リスクはない
小規模個人再生ではなく給与所得者等再生で申立を行なっている場合は、書面決議が「債権者の意見を聴く」手続きに代わります。この場合は多数決を取る手続きではなくなるため、反対リスクという問題は生じません。
10.再生計画案の認可・不認可
裁判所は、書面決議での多数決の状況や個人再生委員の意見等を踏まえて再生計画案を認可とするか不認可とするかを決定します。
11.再生計画案に基づく返済の開始
再生計画案の認可の決定後、約1ヶ月で認可決定が確定します。
債務者(依頼者のことです)は、認可決定の確定後、再生計画案に従ったスケジュールで各債権者に対し支払いを開始します。
12.手続きの期間について
01~03までに要する期間(準備期間)が6ヶ月~1年、04から11までに要する期間(申立後の手続き期間)は6~7ヶ月ほどです。
なお、この期間はあくまで目安であり、事案や状況、地裁の運用によっては異なることがあることをご了承ください。
さいごに
負債について大幅な減額をすることができる個人再生は債務を整理する上で有効な選択肢といえますが、その手続きは複雑であり一般の方が自力で進めるのは難しいです。
また、再生計画によりいくらまで負債が減額されるのかといった点や反対リスクの見極めについては弁護士でないと判断が困難と言えます。
東京・恵比寿にある弁護士法人鈴木総合法律事務所では、個人再生事件の解決について多数の実績を有しております。個人再生を検討されている方は是非一度ご相談ください。