急激な社会情勢の変化や景気の悪化などにより、会社(法人)の経営状態が著しく悪化してしまうケースが多々あります。昨今では新型コロナウイルス感染症(COVID‑19)が、飲食店をはじめ多くの企業に悪影響を及ぼしました。
経営状況に回復の兆しがみられず、資金繰りにも窮するようになってしまえば、債務整理を検討する必要があります。
法人の債務整理の方法には以下の5つがあり、負債の状況や経営状況、事業の継続意思等に応じて最適な方法を選択することになります。
- 私的整理
- 民事再生
- 会社更生
- 破産
- 特別清算
今回の記事では、法人の債務整理について弁護士が解説します。
法人の債務整理の方法
実は倒産という用語は一般用語であり、正確な定義はありません。一般的には経営状態が悪化して自主再建が難しい状態を指す言葉とされております。
このような状況・状態に陥っている場合は自力での再建がほぼ不可能であるため、債務整理手続きを取る必要があります。
会社(法人)が取ることができる債務整理の方法には、以下の5種類があります。
- 私的整理
- 民事再生
- 会社更生
- 破産
- 特別清算
この5種類の手続きを手続きの性質で分類すると、再建型と清算型の2種類に大別することができます。
01.再建型の手続き
再建型とは、法人を残すことを前提に経営状態を改善して再構築していく手続きです。以下の3種類があります。
- 私的整理
- 民事再生
- 会社更生
02.清算型の手続き
清算型とは、法人の資産と負債を清算したうえで法人を消滅させる手続きです。以下の2種類があります。
- 破産
- 特別清算
再建型は手続き終了後も法人が存続するタイプの手続き、清算型は手続き終了後には法人が消滅してしまう手続きとお考え下さい。
私的整理
最初に私的整理についてみていきましょう。
01.裁判所が関与しない手続き
私的整理は、他の債務整理方法(民事再生、会社更生、破産、特別清算)と大きな違いがあります。それは、私的整理については裁判所が関与しないということです。
私的整理は、債務者と債権者が直接交渉をして解決を図る手続きです。そのため、裁判所が介在することはありません。
他方で私的整理以外の4つの方法は、破産法や民事再生法といった法律に則って裁判所の関与のもと手続きを進めるものとなります。これら4つの方法は法的整理と呼ばれることもあります。
02.手続きの内容
私的整理では、債務者である法人が借入先の金融機関や取引先などの債権者と交渉して、債務の圧縮や利息のカット、返済期間の延長といった条件を設定します。債権者と話し合いを行い、今後の返済方法について合意する手続きとお考えいただければ結構です。
合意ができた場合は合意書を作成し、以後は合意書に従った弁済を行なうこととなります。
合意を取り交わし、合意内容に従って支払いを継続できるのであれば廃業する必要はありませんし、経営陣が退任する必要もありませんので、私的整理は再建型手続きに分類されます。
03.私的整理のメリット
私的整理のメリットとしては以下のものが挙げられます。
- 対象とする債権者を選択することができる
- 法人を存続させることができる(会社を残すことができる)
- 負担が軽い
- イメージが良い
①についてですが、私的整理ではすべての債権者を対象として行わなければならないものではありません。債権者を任意に選択することができます。
たとえば金融機関のローンだけを私的整理の対象とすれば、他の債権者、例えば取引先企業にはいままでとおりの対応で済む、迷惑をかけずに済むといったことも可能です。
なお、後述しますが、法的整理の場合は債権者を任意に選択することはできません。全ての債権者を平等に取り扱う必要があるため、特定の債権者だけを手続きから除外することはできません。
②についてですが、私的整理は再建型の手続きですので、手続き終了後も会社を残すことができます。経営陣が退任する必要もありません。
③についてですが、民事再生や破産といった法的整理手続きと比べると、手続きに要する費用を低額に抑えることができます。また、手続き終結までの期間も他の手続きと比べると短いので時間的な負担も軽くなります。
④についてですが、破産や民事再生といった法的整理と比べればイメージが良いので、世間における評判の低下度合いは軽いといえます。
04.私的整理のリスク・デメリット
私的整理のリスク・デメリットとしては以下のものが挙げられます。
- 相手の合意が得られないとできない
- 多額の負債の場合は再建が困難
①についてですが、私的整理はあくまで債権者と債務者との合意が前提となる手続きです。相手方が同意が得られないことには手続きが頓挫してしまいます。しっかりと今後の事業計画を示すなどして債権者の理解を得られるように手配しましょう。
また、②についてですが、私的整理では負債額を大幅に減らすことはまずできません。負債を大きく減額(圧縮)することができる他の再建型手続きとはこの点が大きく異なります。
債務の圧縮がほとんど期待できない以上、負債が大きくなりすぎている場合には私的整理を行なっても事業再建を達成することは難しいことがほとんどです。
民事再生
次に民事再生についてみてみましょう。
01.民事再生とは
民事再生は、民事再生法という法律に従って、裁判所の関与のもとに会社を再建させる手続きです。
その大きな特徴は、一定以上の債権者の同意があれば債務を大幅に圧縮できる点です。債務を圧縮するための再生計画案を作成し、債権者の意見を聞いた上で裁判所の認可を受け、計画通りに支払いを終えれば残りの負債が免除されて企業を再生できます。
また、基本的には経営陣が退陣する必要はなく、そのまま経営に携わることができます。ただし裁判所によって監督委員が選任される可能性があります。
02.民事再生のメリット
民事再生のメリットとしては以下のものが挙げられます。
- 法人を存続させることができる(会社を残すことができる)
- 債務を大幅に圧縮できる
- 比較的短時間で再生の目処を立てることができる
①についてですが、民事再生は再建型の手続きの一つであり、手続きに伴い法人を消滅させる必要がありません。法人が有する有形無形の資産、信用などをすべて維持できるのが大きなメリットといえます。経営者もそのまま残ることができるので、自分の手で会社を再建していくことが可能となります。
②についてですが、民事再生では負債を大きく圧縮することができます。一定以上の債権者から再生計画に対する反対がなければ負債は圧縮され、個別の債権者による合意は不要です。また、その圧縮の効果は再生計画に反対した債権者にも及びます。
③についてですが、民事再生は、法的整理の中では比較的早期に進めることができる手続きです。申立から再生計画認可まで半年程度で終わるケースも多いので、早めに今後の目処を立てることができるというのも大きなメリットといえるでしょう。
03.民事再生のリスク・デメリット
民事再生のリスク・デメリットとしては以下のものが挙げられます。
- 多くの債権者が反対すれば失敗する
- 収益性のない企業は利用できない
- 相応の費用が掛かる
- 社会的な信用を失う
①についてですが、民事再生においては、債務者側が作成した再生計画案について、債務者に対し賛成するか反対するか多数決を取ることとなります。多数決においては債権者全員が賛成が必要とされるわけではありませんが、一定以上の債権者が反対した場合には再生計画案が認可されることはありません。大口の債権者が非協力的なケースなどでは認可を得ることは難しいでしょう。
②についてですが、民事再生を行なうと負債額は大きく圧縮されることとなりますが、債務者は圧縮された金額を返済しなければなりません。取り扱っている商材がほとんど売れる見込みがない等、将来の収益力が見込めず圧縮された負債の弁済すら難しいような状況であれば民事再生を利用することができません。
③についてですが、民事再生を選択した場合、裁判所に納める予納金(裁判所に納める費用)や弁護士費用が高額になることがほとんどです。今後の事業を継続するための資金も必要となりますので、一時的に資金繰りが苦しくなる法人が多く、これをどうやって捻出するかが大きなポイントとなります。
④についてですが、民事再生は再建型の手続きではあるものの、世間一般では破産との区別がほとんどされておりません。そのため、破産と同等の悪いイメージを抱かれることが多く、社会的信用やブランド力がかなり低下してしまうことにつながります。
会社更生
会社更生についてみていきましょう。
01.会社更生とは
会社更生とは、会社更生法という法律によって株式会社を再生させるための特別な手続きです。裁判所の選任した更生管財人のもと、通常一般の民事再生よりも強力な方法で組織再編などを行いながら会社を再生させることが可能です。
なお、会社更生を利用できるのは株式会社だけです。合資会社、合名会社、合同会社、社団法人などの法人は、会社更生をすることができません。
02.会社更生のメリット
会社更生のメリットとしては以下のものが挙げられます。
- 担保権者等による権利行使が制限される
- 大規模な組織再編ができる
担保権者などによる権利行使が制限される
①についてですが、会社更生であれば抵当権者などの担保権者による権利行使を制限することができます(民事再生では権利行使を止めることができない)。この点で、法人の重要な資産(担保設定あり)を守りながらの事業再編を望むのであれば会社更生を選択した方が良いといえるでしょう。
②についてですが、会社更生を適用することで合併や定款変更、増資や減資といった各種の組織再編を容易に行うことが可能となります。ドラスティックな経営改革を達成したいのであれば会社更生を選択することを検討しましょう。
03.会社更生のリスク・デメリット
会社更生のリスク・デメリットとしては以下のものが挙げられます。
- 株式会社のみが利用できる
- 経営権を失う
- 時間がかかる
- 高額な費用がかかる
①についてですが、会社更生を利用できるのは株式会社のみです。そのため、合資会社、合名会社、合同会社、社団法人などでは利用することができません。
また、②についてですが、会社更生は更生管財人主導のもとで進められ、旧経営陣はこれに関与することができません。会社を残すことはできても経営権を維持するのは不可能といえます。
③④についてですが、会社更生は複雑な手続きであるため、終結までに大変長い時間がかかります。また、会社更生の予納金は非常に高額で数千万円単位となります。手続きも重厚な分、弁護士費用も高額になります。
以上のことから、以上の理由から会社更生は中小零細企業よりも大規模な株式会社の再生に適した手続きといえるでしょう。
破産
次に、清算型手続きである破産(法人破産)についてみていきましょう。
01.破産とは
破産は、破産法に基づいて裁判所の関与のもとに債務超過や支払不能状態となった会社を清算して消滅させる手続きです。裁判所の選任した破産管財人の主導のもとで手続きが進められます。
清算型の手続きなので、破産すると会社は消滅します。手続き後に一切支払いは残りませんが、会社の資産もすべて失われることとなります。
02.破産のメリット
破産を選択した場合のメリットしては、以下のものが挙げられます。
- すべての支払が不要となる
- 経営から解放される
- 人生の再スタートを切ることができる
①についてですが、破産手続きによって法人そのものが消滅します。主体が消滅することから法人が負っていた負債の一切についても支払う必要がなくなります。債権者に対する債務、税金や保険料、従業員への給料といった債権も一切含めてなくなります。金額の制限もありません。どれだけ多額の負債を抱えていてもすべてゼロにできるのは大きなメリットと言えるでしょう。
なお、個人破産と異なり、法人破産には免責という概念はありません。破産により法人そのものが消滅してしまうので、法人に対し免責を与える必要がそもそもないためです。
②③についてですが、収益力を失い財務状況の悪化した会社を経営し続けるのは大変なストレスとなります。支払いができなければ債権者から厳しい取り立てを受けることもあるでしょう。破産手続きを取れば会社は消滅するので苦しい経営から解放されるというメリットを享受することができます。また、環境の悪化した中で再生不可能な企業を経営していても人生に先は見えません。破産して経営から解放されれば人生の再スタートを切ることができます。
03.破産のリスク・デメリット
破産のリスク・デメリットとしては、以下のものが挙げられます。
- 法人や資産がなくなる
- 従業員や取引先に迷惑をかける
- 信用を失う
①についてですが、破産手続を行うと法人は消滅してしまいます。また、法人で管理していた資産やテナント等も失うこととなります。法人に愛着を抱いていた経営者にとっては大きな痛手となるでしょう。
②についてですが、破産手続きに臨む場合、以後の従業員への給料や取引先への未払い金を支払うことができなくなります。お世話になった方々に迷惑をかけてしまうのも大きなデメリットといえます。
また、③についてですが、破産した法人の経営者は信用を失います。次に何かしようとしても「前にかつて破産した人だ」という偏見を持たれてしまう可能性があります。
特別清算
さいごに清算型手続きである特別清算についてみてみましょう。
01.特別清算とは
特別清算は、会社法の規定にもとづく清算型の会社倒産手続きです。
債務超過の疑いがあるケース、通常の清算手続きでは著しい支障をきたす可能性がある場合に利用できます。
02.特別清算のメリット
特別清算のメリットとしては以下のものが挙げられます。
- 経営陣が自主的に手続きを進められる
- 費用が安い
- 手続きが早い
- イメージ低下を防ぎやすい
①についてですが、特別清算では申立人が清算人を選べるので、経営陣が残って自主的に清算手続きを進めることが可能です。
また、特別清算は、特別清算は破産と比べて費用が安く、予納金が数万円で済むケースもあり(②)、破産と比べて短期間で手続きが終結する傾向にあります(③)。また、破産と比べると世間に与えるインパクトが小さく信用を維持しやすいといえるでしょう(④)。
03.特別清算のリスク・デメリット
特別清算のリスク・デメリットとしては以下のものが挙げられます。
- 債権者の同意がないと利用できない
- 会社も資産も失われれる
①についてですが、特別清算は債権者が同意しないと成立しません。債権者の同意が得られないのであれば、他の債務整理手続きを検討することとなります。また、②についてですが、破産同様、特別清算でも会社は消滅します。資産やこれまで築いた信用もすべて失われるので、会社に愛着を持つ経営者は喪失感を受けるでしょう。
さいごに
会社の経営状況が悪化した場合、状況に応じて適切な手続きを選択する必要があります。しかし、専門の知識がないとどの方針が妥当であるのかは判断がつきにくいものです。
東京・恵比寿にある弁護士法人鈴木総合法律事務所では、法人の債務整理について注力しております。法人経営が行き詰まってしまった場合は、できるだけ早い段階でご相談下さい。