総論
交通事故により車両が損傷を受けて修理や買替えを要することになった場合、修理や買替えに必要な期間は、車両を使用することができないため代車が必要になることがあり、これに要した費用を代車料といいます。
しかし、代車を利用したら必ず代車料を相手に請求できるわけではありません。代車料が事故と因果関係のある損害と認められる場合に限り、相手は代車料を支払う責任を負います。
そして、代車料が事故と相当因果関係のある損害として認められるためには、代車を使用する必要性があることが一つの要件になっています。
以下、代車の必要性について、裁判例を参考に解説していきます。
代車使用の必要性(車両を通勤・通学の用に供していた場合)
裁判例の傾向を見ると、営業用車両の場合、顧客の接待の用の供されていた場合や会社役員等の専用車としての用に供されていた場合を含め、原則として代車の必要性を肯定されます。
これに対し、自家用車については、事故車両が通勤や通学の用に供されていた場合には代車の必要性が肯定される傾向にありますが、レジャーや趣味の用に供されていた場合には見解が分かれています。
まずは、車両を通勤・通学の用に供していた場合をみてみましょう。
01.浦和地方裁判所昭和54年8月28日判決
自宅から東北本線蓮田駅までの通勤及び日常生活に車両を使用していたとの認定がなされ、代車使用の必要性が肯定された。
02.札幌高等裁判所昭和60年2月13日判決
車両を通勤に使用するほか、工場現場の見回りの際の交通手段として使用していたとの認定がなされ、代車使用の必要性が肯定された。
03.横浜地方裁判所平成元年6月27日判決
「原告は川崎市内の水産会社に勤務し、その勤務の性質上早朝の通勤が必要であるため、通勤手段として乗用車を使用する必要があった」と判示し、代車使用の必要性が肯定された。
04.大阪高等裁判所平成5年4月15日判決
「原告は車両を使用して自宅から約三キロメートルの会社に通勤していたことが認められるところ、バスや電車等の公共交通機関やタクシーの利用では不十分であることなどの主張立証がなく、そのうえ、原告宅には被害車両の他に普通乗用車、軽トラック、原付自転車が各一台保有されていることが認められるから、代車使用の必要性があるものとはいい難く、代車使用料相当の損害の主張は採用できない。」と判示し、代車使用の必要性を否定した。
05.横浜地方裁判所平成9年12月22日判決
「原告は、通勤の手段として電車を利用することができ、現に事故後しばらく電車通勤をしていたことから、通勤の手段として原告車両の使用が必要不可欠であるとはいえず、また、歯科医師という原告の職務の性質上、カルテ、現金、歯の技工模型を毎日運ぶ必要があるともいえず、原告車両を営業用に利用していたものとは認められない。したがって、原告には代車を使用する必要性は認められないので、代車使用料を認めることはできない。」と判示し、代車使用の必要性を否定した。
代車使用の必要性(車両を趣味の用に供していた場合)
次に、車両を趣味の用に供していた場合をみてみましょう。
01.神戸地方裁判所昭和63年8月18日判決
「被告は被害車両を愛好し、マニアとして専ら楽しみのため同車両を乗用していたという以外、他に特段の具体的用途があったものとは認められない。」と判示し、代車使用の必要性を否定した。
02.東京地方裁判所平成8年7月2日判決
被害者は、被害車両を1週間に2~3回ゴルフに行くときなどに使用していたとの認定がなされ、一部、代車使用の必要性が肯定された。
03.東京地方裁判所昭和63年11月8日判決
「レジャーのために代車を使用していたとしても右費用は本件事故と相当因果関係のある損害とは認めがたい」と判示し、代車使用の必要性を否定した。
検討
裁判例によると、通勤・通学の用に供されている自家用車の場合は、代車の必要性が肯定される傾向にあります。この傾向からすると、病人、児童の送迎等に供されている場合も、直ちに代車の必要性が否定されることはないと考えられます。
また、レジャー、趣味の用に供されている自家用車の場合は、代車の必要性を否定したものも肯定したものもあります。被害車両をレジャー、趣味の用に供していた場合には、原則として代車の必要性は否定されると考えられますが、レジャー用であるとの一事から直ちに代車の必要性が否定されるわけではないと考えられます。事故前に被害車両を使用する具体的な計画が存在したのに、事故の結果、当該計画に使用することができなかった場合などは、代車の必要性が認められる余地もあると考えられます。
もっとも、自家用車の場合(営業用車両も同じですが)、代替車両が存在し、使用が可能な場合には代車の必要性が否定されています。その際には、使用目的、使用状況に照らして、代替交通機関の使用が可能であり、相当であると認められる場合には、代車の必要性が否定されることになります。
代車の必要性の具体的要件としては、①被害車両の事故前における使用目的(営業用車両か、通勤・通学用か、買物用かなど)、使用状況(子どもの送迎に使用していた、大量の荷物を運ぶのに使用していたなど)が重要であり、また、②代替車両が存在し、その使用が可能かどうか、あるいは、③自家用車の場合は、その使用目的、使用状況に照らして、代替交通機関が存在し、その使用が可能、相当かどうかも影響します。
なお、代車使用の前提となる被害車両の使用不能があったとはいえない場合にも、代車の必要性の要件を欠くといえますし、現実に代車を使用した事実がない場合(通常は、代車料の領収書を書証として提出します)にも、代車料が事故と相当因果関係のある損害とは認められません。